陸軍歩兵第八連隊



 今回は気分を変えて陸軍のお話〜我が街の郷土部隊である陸軍歩兵第八連隊について〜を数回の予定で行ないたいとおもいます。

またも負けたか八連隊、勲章ひとつも九連隊


 大阪の歩兵第八連隊と京都の歩兵第九連隊を馬鹿にした有名な俗謡です。この歌の救いのないところは、大阪の人達、それも実際に歩兵第八連隊に入営した経験の人達まで歌っていた事にあります。地元の人間にまで馬鹿にされる歩八とは、どんな部隊だったのでしょうか?

 陸軍歩兵第八連隊。大阪城の南にある法円坂(大阪市東区/現中央区)に本営を構える歩兵連隊で、明治七年に鎮台連隊の創設と時を同じくして設立され、鎮台連隊としては最初に軍旗が授与された部隊としてその名をとどめています。
 伝統ある部隊なのですが、「連戦連敗」のイメージが付きまとい陸軍中央でも取扱いに困る「天下の三大難物部隊」に数えられるありさまでした。

 日露戦争に第四師団軍医部長として従軍した森鴎外の従軍詩藻日記である「うた日記」の中の「けさのあらし」という詩中に『およづれか 弱しと聞きし浪速人 先駆けするをまのあたりに見つ』という句があります。
 これは、第八連隊が南山要塞一番乗りの武勲を挙げた様子を詠ったもので、「歩八は弱くはなかった」という証左に挙げられるものですが、言いかえると軍の上層部でさえ「大阪兵は弱い」という事が「常識」になっていたと取ることができます。

 しかし、歩兵第八連隊の歴史を眺めるに、大負けしたのはわずかに1度、明治10年3月3日、西南戦争の吉次峠で第八連隊から分派された第2大隊を含む官軍の別働隊が総崩れになって敗走しているのみです。
 西南戦争の話をするなら、精鋭中の精鋭である近衛歩兵連隊も大苦戦していますし、喧嘩連隊として知られる事になる第十四連隊(小倉)なんぞは軍旗を敵に奪われるという大失態を犯しています。

 なぜ、歩八だけ天下の弱兵連隊になったのでしょうか?


 理由はいくつか考えられます。
 まず、浪速人の気質があります。古くから商人の街として栄えた大阪には強い反骨精神(中央コンプレックス)があり、官吏や軍人になる事を嫌う風土がありました。
 また、

 実際に扱いにくい部隊ではあったようです。それというのも、反中央精神(裏返せば東京コンプレックス)の旺盛な大阪では「大阪では良い鉄は釘にはしない」と役人や軍人になるのを嫌う傾向があり、また、商工業が盛んで就職口があることから兵役を終えるとさっさと軍服は仕舞い込んでしまい、歩八をはじめとする第四師団の諸部隊は慢性的な下士官不足に陥り、他の地域出身の下士官が多く配属されました。
 しかし、3年前まで山奥で農業をしていたような素朴な地方出身の下士官が、要領本分の都会で育った大阪兵を御せる筈もなく、兵は下士官を馬鹿にして下士官は暴力で押さえこうもとして反発を受ける、の無限ループに陥る事が多々あったようです。
 「軍隊の背骨」である下士官が兵を掌握できていないのですから、いかに名将・勇将であっても部隊を満足に扱える筈もなく、天下の難物部隊として名を挙げてしまったのも仕方の無い部分もありました。






 伝統だけではなく、萩の乱で初陣して以来、南西戦争、日露戦争、第一次世界大戦など多くの戦いを戦いぬいた有数の歴戦連隊なのですが、不思議な事に『連戦連敗』のイメージが定着し、地元・大阪でさえ「また負けたか八連隊、勲章ひとつも九連隊」などと俗謡され、日常会話でも勝負事などに負けたときに「また負けたか八連隊」と「負け」の枕言葉的にさえ使用され、
 西南戦争。たしかに、第八連隊の第二大隊は吉次峠で大敗北を喫しています。しかし、その理論でいくなら、近衛歩兵や歩兵第十三といった陸軍の精鋭中の精鋭とされる連隊もこの戦いで大負けしているのです。
 大阪では反中央意識(中央コンプレックスとも)が強く「良い鉄は釘には使わない」といって役人や軍人になる事を喜ばないという風潮があり、徴兵である兵はともかく、下士官や士官に進む者が比率が少なく、歩八を初めとする第四師管の部隊は常に下士官の充足に悩み、他の師管から配属されるものが多かったようです。
 大阪出身の下士官であれば要領本分の都会で育った大阪兵を扱うこともできるのでしょうが、3年前まで山奥で農業をしていたような地方出身の下士官では兵に翻弄されてしまい扱いにくい部隊になっていた事が「難物部隊」
 軍隊と野球を一緒にするのは良くないかもしれませんが、日本で1番阪神タイガースの悪口を言うのは大阪の阪神ファンであるという点と歩八の俗謡が大阪で歌われたのと関係があるのかも知れません。  大阪の阪神ファンは平気で阪神の悪口をぽんぽん言います。ところが、本気で阪神を馬鹿にしているのではなく、愛情の表現方法のひとつみたいな所があります。(したがって、非阪神ファンが下手に相槌をうったら怒ります)



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