日本海軍の爆薬



 爆薬・・砲弾やら魚雷やらに詰めて敵にぶつける火薬です。当然ながら破壊力が大きい方が良いのですが、破壊力の他に色々と問題があり、営々と開発が行われてきました。

 破壊力以外で一番重要なのが過敏さ。信管が作動しているのに爆発しないのは非常に困りますが、信管が作動していないのに爆発するのはもっと困ります。
 過失などで弾薬庫内で爆発したケース(<三笠><河内><陸奥>など)や戦闘中に魚雷や機雷に機銃弾や弾片が命中して誘爆したケース(<疾風><如月><秋月>など)などもあり、いずれの場合も艦にとって致命傷となっています。
 過敏さ以外では発煙の問題もあります。砲弾の場合、あまり派手に煙が出る爆薬は目標を覆い隠してしまうので不適ですが対空砲は無煙や白煙だと照準の修正が出来ないので逆に不便です。
 さらに、大戦中になると生産設備や資源の問題も切実なものとなり、これらに対応する爆薬も開発されました。

 以下に日本海軍が制式採用した爆薬について簡単な説明を載せます。


下瀬火薬(爆薬)

 明治26年制式採用。ピクリン酸を主成分とする日本オリジナルの無煙火薬です。
 「鉄をも燃やす」といわれるほどの高性能で日露戦争の勝因のひとつとも言われており、砲弾から魚雷まで、あらゆる場面で使用されました。
 欠点としては過敏すぎて取り扱いが難しく、特に砲弾として使用した場合、飛翔中の圧縮現象で爆発してしまい、命中後に遅延炸裂する必要のある徹甲弾としては完全に不適であった事(大正11年ごろに一応の改良完了)や破壊力が後の高性能火薬などに比べて劣る点が挙げられます。

八八式爆薬

 大正13年制式採用。過塩素酸アンモニウムを主成分とする爆薬で「カーリット」として民間でも使用されていたものです。
 性能は低いものの大量生産に適し調達が容易なこと事から主に機雷や爆雷に採用されました。

九一式爆薬

 昭和6年制式採用。トリニトロアニソールを主成分とする爆薬です。
 比較的鈍感な爆薬で、下瀬火薬では過敏すぎて不適な徹甲弾(装甲を貫通してから爆発しないといけない)に使用されました。
 毒性が強いので取り扱いは難しかったようです

九二式爆薬

 昭和9年制式採用。火薬の王トリニトロトルエンを主成分とする、いわゆるTNT火薬。
 素晴らしい性能と安定性を誇りますが生産性は不良でした。
 TNT火薬は各所で使われるようになりますが、最初は機銃の炸裂弾用でした。

九四式爆薬

 昭和9年制式採用。トリニトロアニソールとトリニトロトリニトラミンを混合した魚雷用の高性能爆薬です。
 かなり過敏で危険であった事から短期間で製造中止となりました。

九七式爆薬/九八式爆薬

 昭和12年〜13年制式採用。トリニトロアニソールとヘキサニトロジフェルニアミンを混合した高性能爆薬で九七式が魚雷用、九八式は爆弾用でした。
 下瀬火薬より強力な上に九二式よりも被弾に対して安全であった為、多用されることになります。

一式爆薬

 昭和17年制式採用。ピクリン酸アンモニウムにアルミニウム粉、木粉、重油を混合した下瀬火薬の改良型にあたる爆薬です。
 主に機雷や爆雷で使用されましたが、戦局の悪化にともなうアルミニウムの欠乏で生産は大きく減じました。

二式爆薬

 昭和18年制式採用。トリニトロアニソールにアルミ粉を混合した爆薬で焼夷力に優れていました。
 対空砲用に開発されましたが、爆発煙が白色で識別しにくい為、さらに下瀬火薬と組み合わせて使用したようです。

代用爆薬

 戦局の悪化に伴いトリニトロトルエンやアルミニウムが欠乏し、爆薬の生産に大きな支障が出たことから比較的余裕のある物資を用いた代用爆薬の研究が進められ、過塩素酸アンモニウムに硫化アンモニウムなどを混合して鈍感としたK1、K3、K4や硝酸アンモニウムを利用したK2などが生産されました。


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