艦艇の基礎知識:排水量と総トン数

 船の寸法の中には単位に「トン」を使用するものがありまが、モノによっては船の重さではない場合があります。

 軍艦で使用される「排水量」は水を一杯にはったプールに船を浮かべたときにあふれる水の量を表わしたもので、水線下の体積×水の比重であり、浮力と等しく、すなわち艦の全重量を示します。

 商船は一般に「総トン数」を使用します。
 これは、船の容積を示す単位ですが、算出方法は各国により若干の差違があった為、1969年に 国際総トン数=船の全容積×0.2+0.02+log(船の全容積) が制定されました。
 この他、全容積ではなく、貨物および旅客の運搬スペースのみの容積から算出される「純トン」、貨物倉の容積を40立方フィートを1トンとして算出する「載貨容積トン数」があります。


 総トン数は容積から求まるので、船を改装しない限り変化しませんが、排水トン数は重量なので船の状態(積荷)により変化するので、「標準状態」というべき状態が何とおりか定められています。

満載排水量
 燃料や弾薬、消耗品を積めるだけ積み込んだ状態です。最大排水量ともいいます。
 戦場ではありえない状態なのであまり重視されませんが、あまり軽視すると、旋回時に傾斜したり、洒落にならない事になります。

常備排水量
 艦の臨戦スタンバイ状態で、弾薬の3/4、燃料の1/4、水や消耗品の1/2を搭載した状態です。
 基準排水量が制定されるまでは、艦の基本状態でした。
 なお、海上自衛隊の「常備排水量」は海軍でいう「公試排水量」の事で別物です。

公試排水量
 公試(竣工直後に行われる船の性能を測定する試験)を行なう時の状態です。
 どの状態で公試を行なうかは各国により差がありましたが、日本海軍は極めて実戦的な状態、すなわち燃料、水、非戦闘消耗品の2/3と弾薬および戦闘消耗品を満載した状態をさしました。(=戦闘を開始する瞬間の状態)
 海上自衛隊では、この状態を「常備排水量」といいます。
 基本的に、艦艇を設計する時はこの状態が最良の状態となるように設計します。

基準排水量
 軍縮条約の為に制定されたもので、満載排水量から燃料と水を抜いた状態です。
 if戦記の影響か、アメリカに有利で日本に不利な条件だったと思っている人が居ますが、条約以前の艦では日英艦の燃料積載量はアメリカやフランスの艦に比べてかなり大きく、決して日本に不利な条件ではありませんでした。
 なお、実際には絶対に有り得ない状態で、あくまでも政治的な状態です。

軽荷排水量
 戦闘直後の状態を想定したもので、燃料・弾薬・消耗品の1/3を搭載した状態です。
 カタログデータとして表に出る事は少ないデータですが、設計の段階で軽視すると船が浮き上がって危険な事になります。


 軍艦の排水量は常に増加の傾向があり、日清戦争で恐怖の的だった戦艦<定遠>7千トン、超弩級の語源ともなった戦艦<ドレッドノート>1万8千トン、長らく聯合艦隊の象徴として君臨した戦艦<長門>3万2千トン、そして史上最大の戦艦<大和>6万4千トンと際限なく巨大化いきました。
 戦艦は太平洋戦争後は建造されなくなりましたが、空母や駆逐艦は巨大化を続け空母は8万トンを突破、駆逐艦も海自のイージス艦(巡洋艦のような気もするが、海自はあくまでGuided Missile Destoryer〜ミサイル駆逐艦〜と主張している)は7千トンを越え、日清戦争期の戦艦より重くなってます。

 商船のほうも巨大化が顕著で、太平洋戦争期で1万総トンといえば国際航路用の巨船だったのが、いまや沿岸の各航路で活躍中の<さんふらわぁ>シリーズでも1万総トンを越えており、10万総トンを越えるタンカーや客船もあります。
 もっとも、経済性の問題があるので、なんでも巨大化すれば良いという訳ではなく、日本の豪華客船<飛鳥>などは<オリアナ>や<QE2>の半分以下の3万総トン弱どまりになっています。


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