特設給油船

 いわゆるタンカー。海軍には専用の給油艦があったが、洋上給油などで手一杯だった為、多くの民間タンカーを徴用して原油輸送や拠点間の燃料・物資輸送、泊地内での燃料備蓄や輸送、場合によっては洋上補給などで使用した。また、当時は南氷洋捕鯨母船を夏季(南氷洋は冬季)は油槽船として使用していた為に油槽機能が充実しており、何隻かは特設給油船に編入された。
 海軍では艦隊の洋上補給や拠点間の燃料輸送の他に独自に南方資源還送などを行なっており、主に大型の高速タンカーを中心に徴用した。これらのタンカーは内地でほとんど石油を産しない日本にとっては大動脈を流れる赤血球というべき存在だったが、それ故に連合軍の攻撃は熾烈を極め、ほとんど全ての特設給油船が失われた。

東邦丸(飯野海運)

 昭和4年に第1船を投入後、忽ち油槽船の雄に成り上がった飯野海運が自己資金で昭和11年に建造した大型高速タンカー。
 川崎造船所が建造した13隻の「川崎型油槽船」の5番船であるが、工事が良好だったのか、11番船<建洋丸>に次ぐ20.1ノットの高速発揮に成功している。
 就役後は北米航路で原油輸送に従事したが、昭和16年に徴用、同じく川崎型の<日本丸><東栄丸>と共に第2補給隊を編制し、宿毛湾や佐伯湾で艦隊随伴訓練や洋上補給訓練を行った。
 昭和16年11月26日、空母6隻を主力とする機動部隊と共に択捉島単冠湾からハワイに向けて出撃、歴史的大作戦を裏から支えた。その後はトラック島を中心に南方拠点間相互の燃料輸送や物資輸送に従事した。
 昭和18年3月29日、マカッサル海峡で米潜<ガジョン>の雷撃を受けて沈没した。

総トン数 9997トン/全長 152.4m/機関 ディーゼル9903馬力/速力 20.1ノット



第三図南丸(日本水産)

 随伴船への補給用の油槽と鯨油用の油槽を持つ捕鯨母船は油槽船としても利用できる事に着目した海軍が昭和11年から13年にかけて水産3社を援助して建造させた5隻の大型捕鯨母船のうちの第4船で、姉妹船の第二図南丸(19262トン)に次ぐ、日本第二の巨船として知られていた。(軍艦でも本船より排水量が大きいのは<赤城>と<加賀>、後の大和型ぐらい)
 昭和13年9月23日竣工後、冬季は南氷洋捕鯨、夏季は北米のからの原油輸送に従事したが、国際情勢の悪化により昭和16年度の出漁は取り止め、原油輸送もアメリカの輸出禁止令と日本資産凍結により途絶し11月には海軍に徴用され特設運送船(給油船)となった。
 石油と物資の両用輸送船として緒戦のミリ、セリア、ブルネイ、クチンなどの攻略作戦に従事、戦闘中に中破した為、内地に帰還して修理。その後は主に南方と内地間の軍事輸送に従事した。
 昭和18年7月24日、米潜<ティノーサ>の雷撃を受けたが、沈没は免れトラック島で修理。昭和18年9月25日を以って徴用が解除されたが、修理も終わらない昭和19年2月17日のトラック大空襲で大破、20日に沈没した。
 昭和25年、GHQの許可を受けて浮揚・修理を行ない<図南丸>と改称して南氷洋捕鯨に復帰、戦後日本の厳しい食糧事情を支えた。昭和46年に解体。

総トン数 19210トン/全長 163.1m/機関 タービン8200馬力/速力 14.1ノット



みりい丸(三菱汽船)

 第一次戦時標準船TL型(1TL)として建造された南方物資還送用の大型高速タンカー。戦時量産船であるが、第一次戦標船は「戦争が終わった後、不良船が大量に残ったら困る」という悠長な事を言う余裕があったので、総じて個船の性能が良く、なかでもTLは空母への改造が考慮されていた為、かなり大型・高速であった。
 <みりい丸>は昭和18年9月に竣工。まず陸軍に徴用されシンガポール=内地間の原油輸送に3回ほど従事した後、昭和19年6月に海軍に徴用され特設給油船となった。
 南方航路の厳しさは「無謀」の域に達しつつあり、特設艦船としての最初の航海は6月29日にフィリピン沖で雷撃を受けてマニラで引き返し、2度目の航海は護衛艦や僚船が次々と沈められていく中を無事シンガポールに到達、復路も海南島沖で触雷し船団と別れつつも北を目指し、ついに高雄に達し搭載物件陸揚げの命令をうけるが、荷役作業中の昭和20年1月15日、空襲により高雄港外で大破座礁し船体放棄となった。
 僅か499日の生涯であったが、それでも1TL18隻のうちでは最も長命(終戦後の期間は除いての場合。後期完成の2隻が終戦まで生き残っているので、戦後を含めると3位)であったという事が、海上輸送戦の激しさを物語っている。

総トン数 10564トン/全長 154.31m/機関 タービン4800馬力/速力 18.4ノット/兵装 20センチ単装砲*1、25ミリ単装機銃*4 20ミリ連装機銃*8 13ミリ単装機銃*4 爆雷*16



室津丸(海軍/朝鮮郵船)

 昭和18年2月より大量生産が始まったE型戦時標準船を油槽船に改造したET型の試作1号船。
 E型改造油槽船は南方の産油地と集積地などの相互連絡を目的としているが、元が元だけに小型・低性能で、「荷役ポンプは付いているがボイラーが付いていないので、蒸気を陸上から供給する必要がある」なんてのは可愛い方で、「搭載油は重油のみとし、揮発油や原油は搭載できないとは言わないが、搭載した場合について艦政本部は安全を保証しかねる」という眩暈のするような但し書きまで付いている恐ろしい船だったが、量産性は良好で昭和18年10月から建造が始まり、昭和19年末に松根油採取用の乾留缶建造に注力する為に建造停止となるまで、148隻が建造された。
 <室津丸>は仁川を母港に朝鮮郵船が運航したが、終戦まで生き残り昭和36年に解体されるまで専ら近海の油輸送に使用された。

総トン数 850トン/全長 60m/機関 ディーゼル750馬力/速力 10ノット/兵装 不明(標準的なE型改造油槽船の武装は8センチ迫撃砲*2、爆雷*4。昭和20年より25ミリ連装機銃*1を増設)



特設給油船一覧
船名船主・運航者総トン数終末・備考
久栄丸日東汽船1017118.12.27 雷撃により沈没
東栄丸日東汽船1002218.1.18 雷撃により沈没
日栄丸日東汽船1002020.1.7 雷撃により沈没
良栄丸日東汽船1001620.3.5 雷撃により沈没
帝洋丸日東汽船984919.8.19 雷撃により沈没
賓洋丸日東汽船869119.2.17 空襲により沈没
第二海城丸日東汽船863617.3.5 雷撃により沈没
昭洋丸日東汽船749818.9.21 雷撃により沈没
睦栄丸日東汽船513519.1.4 事故により沈没
万栄丸日東汽船522619.11.18 雷撃により沈没
日邦丸飯野海運1052819.10.27 雷撃により沈没
旭邦丸飯野海運1005919.10.1 雷撃により沈没
東亜丸飯野海運1005218.11.25 雷撃により沈没
南邦丸飯野海運1003319.2.24 雷撃により沈没
東邦丸飯野海運999718.3.29 雷撃により沈没
富士山丸飯野海運952719.2.17 空襲により沈没
雄鳳丸飯野海運513519.11.26 空襲により沈没
神鳳丸飯野海運513519.8.12 雷撃により沈没
栄邦丸飯野海運506820.1.21 空襲により沈没
みりい丸三菱汽船1056420.1.15 空襲により沈没
さくらめんて丸三菱汽船735418.5.4 雷撃により沈没
さんぺとろ丸三菱汽船726819.4.23 解傭
さんぢゑご丸三菱汽船726819.3.25 解傭
さんらもん丸三菱汽船726818.11.27 雷撃により沈没
さんるいす丸三菱汽船726819.6.8 除籍(一般徴傭船に変更)
タラカン丸三菱汽船513520.1.7 雷撃により沈没
あまつ丸石原汽船1056719.3.30 空襲により沈没
あづさ丸石原汽船1002219.9.17 雷撃により沈没
あさしほ丸石原汽船514119.3.30 空襲により沈没
あさなぎ丸石原汽船514119.6.11 雷撃により沈没
有馬丸日本郵船738918.4.3 雷撃により沈没
松本丸日本郵船702418.10.31 解傭
吾妻丸日本郵船664518.12.3 雷撃により沈没
清洋丸国洋汽船1053619.6.20 空襲により沈没
国洋丸国洋汽船1002619.7.30 雷撃により沈没
健洋丸国洋汽船1002419.1.14 雷撃により沈没
大峯山丸三井船舶1053619.3.4 雷撃により沈没
御室山丸三井船舶920419.12.22 雷撃により沈没
建川丸川崎汽船1009019.5.24 雷撃により沈没
興川丸川崎汽船1004319.9.24 雷撃により沈没
第三図南丸日本水産1921018.9.25 解傭
厳島丸日本水産1000619.10.31 空襲により沈没
玄洋丸浅野物産1001819.6.20 空襲により沈没
紀洋丸浅野物産725119.1.4 雷撃により沈没
第二共栄丸共栄タンカー11921.7.27 雷撃により沈没
第三共栄丸共栄タンカー118920.6.30 解傭
第三小倉丸共同企業735019.2.23 雷撃により沈没
第二小倉丸共同企業731119.5.8 解傭
室津丸朝鮮郵船(海軍省)85020.11.30 除籍
黒潮丸中外海運1051817.5.1 解傭
神国丸神戸桟橋1002019.2.17 空襲により沈没
海城丸大連汽船327018.3.10 空襲により沈没
日本丸山下汽船997419.1.14 雷撃により沈没
第二菱丸扇町タンカー85619.11.9 雷撃により沈没
東園丸岡田汽船523218.3.2 雷撃により沈没
興隆丸興亜汽船97420.6.12 触雷により沈没
満珠丸昭和石油651518.12.11 解傭
あけぼの丸日本海運1012119.3.31 空襲により沈没
日章丸昭和タンカー1052619.2.25 雷撃により沈没
球磨川丸東洋海運751020.1.12 雷撃により沈没
照川丸五洋商船642818.12.21 雷撃により沈没
霧島丸国際汽船826718.9.25 雷撃により沈没
極洋丸極洋捕鯨1754918.9.19 座礁により船体放棄
第二永洋丸日本油槽船506119.9.12 空襲により沈没
朝嵐丸鹵獲船600020.11.30 除籍
巨港丸鹵獲船580018.12.27 雷撃により沈没
三樂丸鹵獲船300018.6.15 雷撃により沈没
愛天丸鹵獲船206820.11.30 除籍
江ノ島丸鹵獲船194220.11.30 除籍