特設水上機母艦

 商船に水上機の搭載設備と射出機を装備したのが特設水上機母艦である。
 射出機を装備しているものの、本質的には迅速に水上機基地を設営する為の船で、大戦序盤の日本軍の進撃期には日本軍の優れた水上機と飛行場設営能力の低さも手伝って活躍した。
 中盤以降は水上機では新型機に太刀打ちできなくなり、また戦線も縮小傾向に転じ水上機基地を設営する必要も薄れたため、特設運送船に転籍していった。

神川丸・聖川丸・君川丸・国川丸(川崎汽船)

 川崎汽船が第三次船舶改善助成施設によりニューヨーク航路向けに建造した高速貨物船。各船の頭文字をとると「神聖君国」になるように命名されており、神聖君国型とも呼ばれる。
 支那事変により<神川丸>が徴用され特設水上機母艦となり、太平洋戦争により残り3隻の姉妹船も特設水上機母艦となった。
 大戦劈頭は主に北方で華々しい活躍を見せたが、次第に活躍の場を奪われ、<神川丸>を除き特設運送船に転籍となった。
 <神川丸>は昭和18年5月28日、カビエン沖で米潜の雷撃を受け沈没。
 <聖川丸>は沈没状態で終戦を迎えるも浮揚され川崎汽船に復帰、<氷川丸><有馬山丸>など、生き残ったごく少数の船と共に終戦直後の日本を支えた。
 <君川丸>は昭和19年10月23日、比島沖で米潜の雷撃を受け沈没。
 <国川丸>は昭和20年5月1日、バリクパパン起沖で空襲を受け沈没。

総トン数 約6863トン/全長 146.15m/機関 ディーゼル7500馬力/速力 19.5ノット/兵装 15センチ単装砲*2、13ミリ単装機銃*2 射出機1基 水上偵察機12機




相良丸・讃岐丸(日本郵船)

 日本郵船がN型、A型に続き建造した高性能貨物船で、「S型貨物船」と呼ばれるシリーズのうちの2隻。
 <相良丸>は<讃岐丸>を含めた他のS型船に比べて総トン数が2000トン以上すくないが、これはS型は本来、減トン甲板口をもつ遮浪甲板船であったが、<相良丸>以外の船は建造中もしくは完成後にこれを閉鎖した為に総トン数の算出対象となる面積が増加した為である。
 <相良丸>は本来、ニューヨーク航路への就役が予定されていたが、時局の悪化に伴いシアトル航路に就役した。
 <讃岐丸>は東航世界一周航路に就役、処女航海では横浜=ロスアンゼルス、横浜=パナマ運河=ロンドンの貨物船レコードを更新した。
 開戦直前に徴用され特設水上機母艦に改造、戦線の拡大に伴い太平洋を駆け回って活躍した、昭和17年12月1日、特設水上機母艦の任を解かれ特設運送船に転籍しこんどは本業ともいえる物資輸送で活躍した。
 <相良丸>は昭和18年6月23日、伊豆半島沖で雷撃を受け大破、駆逐艦<沢風>に曳航され天竜川河口に任意座礁したが、救難作業を行う間もなく船体が折れ、9月1日に放棄された。戦死者はなく負傷者が2名。姉妹達の大半は乗員がほぼ全滅するような悲惨な最後をとげており、最後の最後の幸運だった。
 一方、<讃岐丸>は昭和17年1月に空襲、18年3月に雷撃、18年12月に触雷とひととおりの災厄を経験しつつも強運を発揮して生き延びたが昭和20年1月28日、済州島沖で雷撃をうけ、ついに沈没した。

総トン数 約7189トン(讃岐丸は9246トン)/全長 146.22m/機関 ディーゼル9600馬力/速力 19.6ノット/兵装 15センチ単装砲*2、13ミリ単装機銃*2 射出機1基 水上偵察機12機



特設水上機母艦一覧
船名船主総トン数終末・備考
神川丸川崎汽船686318.5.28 雷撃により沈没
君川丸川崎汽船686318.10.1 運送船に転籍
聖川丸川崎汽船686217.12.1 運送船に転籍
国川丸川崎汽船686318.10.1 運送船に転籍
讃岐丸日本郵船924617.12.1 運送船に転籍
相良丸日本郵船718917.12.1 運送船に転籍
山陽丸大阪商船836018.10.1 運送船に転籍