昭和14年、日華事変(日中戦争)に伴い、在支の部隊に食糧を供給する必要から計画された小型給糧艦(類別は運送艦)。
 従来の給糧艦<間宮>や建造中の<伊良湖>に比べ、排水量で1/10と非常に小型であるが、<間宮>などが聯合艦隊の胃袋をささえる大型艦で、食糧の輸送だけではなく、生産を行なう食品工場を兼ねた万能艦であったのにたいし、本型や同時期に計画された<野埼>は比較的小規模な部隊に食糧を輸送する事に主眼を置いた為で、実質的に別艦種といえない事もない。

 構造は完全な商船型で、ほとんど、というか完全に「冷凍船」である。
 1番艦<杵埼>は、当初は雑役船4006号として竣工、のちに雑役船<南進>となり、昭和17年に運送艦<杵埼>となった。
 1番艦<杵埼>の成功により昭和16年度計画で3隻が建造され、さらに(5)計画では7隻が計画されたが、こちらは戦局の変化により全艦が計画中止となった。
 杵埼以下4隻は飢餓に喘ぐ前線への光明として絶望的な輸送作戦に従事、輸送の傍らで護衛艦の真似事のような任務につく事もあった。

 昭和20年3月、<杵埼>が奄美大島で米軍機の攻撃を受けて沈没したが、残りの3隻は大戦を生き抜き、<早埼><白埼>は復員業務に従事した後に賠償艦として引き渡され、<荒埼>は農林省に移管され、水産講習所練習船<海鷹丸>として昭和31年まで使用され、その後も民間船として昭和40年まで活躍した。


杵埼要目

 名  称   杵埼型
 ネームシップ  杵埼
 建造時期  昭和15年9月30日〜昭和18年5月29日
 建 造 数 4隻(計画中止7隻)
 基準排水量  910トン
 垂線間長   58m
 最 大 幅   9.40m
 吃  水   3.11m
 主  機   艦本式23号甲8型ディーゼル2基
 推 進 軸 2軸
 主  缶   −−−−−
 出  力   1600馬力
  計画速力  15ノット
 航 続 力 12ノットで3500浬
 燃料搭載量  重油57トン
 乗  員   67名
 兵  装   8センチ単装高角砲 1基
 13ミリ連装機銃 1基
 爆雷8個
 搭 載 量 食糧84トン(杵埼は82トン)、真水71トン 

同型艦:
 杵埼、早埼、白埼、荒埼