第一次世界大戦で第二特務艦隊が地中海に派遣された際、イギリス海軍よりH級駆逐艦<ネメシス><ミンストラル>が貸与され、<橄欖><栴檀>として日本艦隊に属し活躍した。

 H級は1909年度計画の艦で、所謂「フィッシャープラン」(超戦艦<ドレッドノート>を中核とする艦隊計画)のF級をルーツとする航洋駆逐艦で、F級の縮小コストダウン版のG級のさらなる縮小コストダウン版である。
 F級が常備排水量998トン、速力33ノット、10.2センチ単装砲2、45センチ単装魚雷発射管2、建造費14万ポンドなのに対し、本級は建造費を8万ポンドとする為に常備排水量を772トンまで減少させ、速力は27ノットとなったが、武装は10.2センチ単装砲に加え、7.6センチ単装砲2が追加され、雷装も53センチ発射管2とかえって強化されている。

 日本海軍では時期的には櫻型が、技術的には桃型が近く、性能を比較すると両国の差異が出てなかなか興味深い。
H級櫻型桃型
 1番艦竣工年  明治43年 明治45年 大正5年
 常備排水量  772トン 530トン 755トン
 全長 75.0m/8m 83.5m 88.4m
 機関/出力 直結タービン
 13500馬力
 レシプロ
 9500馬力
 直結タービン
 16700馬力
 速力 27ノット 30ノット 31.5ノット
 備砲(単装) 10.2x2、7.6センチx5 12センチx1、8センチx4 12センチx3、8センチx2
 魚雷発射管 53センチ単装x2 45センチ連装x2 45センチ三連装x2

 当時は駆逐艦建造技術が全ての分野で劇的な進歩を続けていた時期で、本型も煙突の排煙が逆流する問題や、艦尾波が高すぎて後部甲板での作業に支障をきたすなどの問題があり、同一シリーズ中でも船体をストレッチしたり武装を移動させたり、煙突を延長したりと試行錯誤の連続であったが、長い船首楼、重油専燃、タービン推進など、後の駆逐艦の「基本」はこのころに完成している。

 合計20隻が建造され、全艦が第一次世界大戦に参加。そのうち<スタンチ><コミット>が戦闘で、<ゴールドフィンチ>が事故で失われ、残る17隻は、日本から返還された<ネメシス><ミンストラル>も含めて1920年〜21年にかけて除籍・売却となった。

H級の戦い:連合国の対立?  〜貸与艦〜

 第二特務艦隊の活躍に気を良くしたイギリスは<ネメシス><ミンストラル>に続き、さらに22隻の駆逐艦の貸与を日本政府に提案した。(これは結局、実現はしなかった)
 1個水雷戦隊以上の戦力(当時のイギリスの水雷戦隊は定数20隻)を日本人に委ねようとした背景には、日本の活躍もさることながら、これ以上、海上護衛戦に人員を配置できなくなってきていたイギリス海軍の事情もあったものと思われる。
 また、連合国のもう一方の主要国、フランスはというと国内が戦場となってしまった為に造船に支障をきたし、日本に対して護衛駆逐艦(樺型)を発注・・・・・イギリス人は日本人に船を貸したがり、フランス人は日本人に船を作らせる・・・
 イギリス人がフランス人に船を貸してやったら八方丸く収まったんでは・・・やはり背景は英仏の対立なのか?



H級要目

 所  属   イギリス海軍
 名  称   H級
 ネームシップ  エイコーン(Acorn)
 建造時期  1910年7月〜1912年2月
 建 造 数 20隻
 常備排水量  772トン
 全  長   75.0m(後期艦は83.8m)
 水 線 幅   7.7m(後期艦は7.8m)
 吃  水   2.7m
 主  機   パーソンズ式直結タービン1基
(<ブリスク>はブラウン・カーチス式直結タービン1基)
 推 進 軸 3軸(<ブリスク>のみ2軸)
 主  缶   ヤーロ式水管缶・重油専燃
(<レッドポール><ライフルマン><ルビー>はホワイト・フォスター式水管缶)
 出  力   13500馬力
  計画速力  27ノット
 航 続 力 13ノットで1900浬
 燃料搭載量  重油170トン
 乗  員   72名
 兵  装   10.2センチ45口径単装砲 2基
  7.6センチ単装砲 5基
  53センチ単装魚雷発射管 2基

 同型艦:エイコーン、アラーム、ブリスク、シェルドレイク、スタンチ、カーミリアン、コミット、ゴールドフィンチ、ネメシス(橄欖)、ニリーデ、ニンフ、フューリー、ホープ、ラーン、ライラ、マーティン、ミンストラル(栴檀)、レッドポール、ライフルマン、、ルビー