大正六年、八八艦隊計画の初期段階の天竜型軽巡洋艦、長門型戦艦と共に計画された大型航洋駆逐艦。

 イタリアに譲渡された浦風型2番艦<江風>の売却代金で建造された2代目<江風>の方が先に完成した為、江風型と称されるが、計画および起工は2番艦<谷風>の方が速かったので、谷風型と称する事もある。

 天竜型軽巡洋艦と同時期に同じ設計者により同じ方針で設計されている為、船体や砲配置が非常に似ているのが特徴で、天竜型を旗艦とする八八艦隊水雷戦隊の主力として計画されていたが、結局、本型は2隻の建造に留まり、純日本式設計の峯風型へと移る事になる。

 12センチ砲が1門減じ、代わりに国産駆逐艦として初めて53センチ魚雷を装備するなど、砲力を犠牲に雷撃力に重点をおいた設計となっているが、従来の艦に比べ、砲熕装備を高い場所に移す等、荒天下でも戦闘力を失わない工夫が随所になされている。

 日本駆逐艦として初めてオールギヤードタービンを採用、缶も重油専燃となり34000馬力の高出力を得、当時最速の計画速度37ノットとされたが、高速運転を行うとタービンブレードの破損事故が頻発する危なっかしい所があった。

 本型は最後のイギリス式設計の大型駆逐艦として日本駆逐艦史にその名を止めている。



江風型の戦い:軍艦の値段 〜江風〜

 イタリア海軍に譲渡した初代<江風>の代金返却は約87万円、それより約30年ほど前にシンガポール沖で消息を断った巡洋艦<畝傍艦>に支払われた保険金が124万円、太平洋戦争期の駆逐艦で200万円程度だという話。
 対して海上自衛隊の多目的護衛艦(DD)は600億円、ミサイル搭載護衛艦(DDG)に至っては1000億円を越えいる。
 物価はもちろん、金融・経済のシステムからして根本的に違うので、比較できるような代物ではないが、それでも「駆逐艦は消耗品」などとは言えないご時世なのは判る気がする。




浦風型要目(新造時)

 名  称   江風型(谷風型と称する事もある)
 ネームシップ  江風(谷風)
 建造時期  大正7年11月11日〜大正8年1月30日
 建 造 数 2隻
 基準排水量  1180トン
 全  長   99.6m
 水 線 幅   8.8m
 吃  水   2.8m
 主  機   パーソンズ式(<谷風>はブラウン・カーチス式)オール・ギヤードタービン2基 
 推 進 軸 2軸
 主  缶   ロ号艦本式水管缶4基(重油専燃) 
 出  力   34000馬力
  計画速力  37.5ノット
 航 続 力 14ノットで3400浬
 燃料搭載量  不明
 乗  員   128名
 兵  装   12センチ45口径単装砲 3基
  6.5ミリ単装機銃 2基
  53センチ連装魚雷発射管 3基



江風型の航跡

江風 Kawakaze
大正7年11月11日、横須賀工廠にて竣工、一等駆逐艦に類別
昭和9年4月1日、除籍

谷風 Tanikaze
大正8年1月30日、舞鶴工廠にて竣工、一等駆逐艦に類別
昭和10年4月1日、除籍、戦後解体