バイナリィ・ポット
 バイナリィ・ポット

  オーガスト 定価:8800円  発売:2002年2月
ネット上の擬似人格ですが自律しているので「死」としていいと思います。フィジカルな病気ではなく、メンタルの方、心の傷です。

 オーガストの18禁AVG。
 現実とネットゲームの両方を舞台にするという、ちょっと毛色の変わった設定でしたが、中身はお約束に溢れた安定感のある(悪く言えば陳腐な)作品でした。

 主人公はネットカフェ「バイナリィ・ポット」のオーナーの息子で店長。なんだか「Piaキャロット」シリーズを彷彿させるシチュエーションですが、こっちは純然たるAVGでSLG的な要素はありません。
 経営が思わしくない、という設定ですが問題になるのはメインヒロインぐらいで、他は現実とネットの両方で進行する恋愛物の現実側の舞台がネットカフェである、という程度の扱いです。

 ゲーム期間は約2週間。昼間はお店で働き、夜は五感も同期するネットゲーム「ワールド」に接続して過ごします。
 1日2回、移動先選択というか女の子選択があり選択した女の子とイベントが発生、他に何回か通常の選択肢が出てゲームは進行します。
 難易度は激甘。変なひっかけは無いのでお目当ての女の子を選び続ければ間違いはありません。(トゥルーEDは少し別。また、通常ルートでも選択肢によってはCGを落すことはありえます)

 ストーリーはひたすらお約束。「世話焼き幼馴染」「内気系年下」「活発系年下」「謎系年下」「おっとり年上」と直球勝負で固めたキャラがネットという特殊な設定はあるものの、ほぼお約束の範囲で動きますが悪い話じゃありません。
 CGも今風でありがちな作風でお約束感を強化しています。若干、絵にふらつきがあって立ち絵とイベントCGで微妙に雰囲気が違うキャラもいますが、まあ許容範囲だと思います。

 ゲームシステムは特殊な機能はありませんがメッセージスキップは既読/強制選択可能。セーブは選択肢表示中も可能で全80ヶ所、セーブ/ロードのインデックスに表示されるのは実時間とゲーム時間、テキスト読み返しはホイール対応と手堅くまとまっていて致命的なバグもありませんでした。
 難点を挙げると誤字脱字が少々多すぎるのとメッセージウィンドウが台詞と名前が分割されていて、名前の方はテキスト読み返しの時に表示されないので会話が交錯するシーンだと誰の台詞がわからなくなった事がある事ぐらいでしょうか。

 死にゲー/病みゲーの格付けは死にゲーが第2種(重要キャラが関係)、病みゲーが第3種(シナリオに一部影響)と認定。
 根拠は死にゲーの方はネットゲームの擬似人格(ある程度は自律型らしい)である「ミリィ」にネット世界が崩壊する(=人格が消える)イベントがあります。ミリィにはHイベント&EDもあるので2種としました。
 病みゲーの方はネット上で陵辱された活発系年下担当の里美ちゃんの心の傷の部分。割と深刻な状態でストーリーにも大きく影響しており2種としてもよかったのですが、終盤ラストスパートでの出来事なので3種としました。

 私的な評価は・・上の下、「佳作」。これといって抜けている部分は無く、ひたすらお約束の範囲内に収束する作品ですが、逆に特に悪い部分もなく、全てにおいてそこそこの水準に達して安定感がある事を評価しました。私はお約束は嫌いではありません。


 お気に入りは諏訪奈都子。バイトのウェイトレス、主に調理を担当。真面目だけど少々内気、他人を思いやる気持ちが強すぎて自分を殺してしまい思い詰めるタイプ。料理上手。
 お約束極まりないキャラでイベントやEDもありがちなものですが、正道は強力であるが故に正道なのです。

 次点は小津千歳。カフェオレに角砂糖を6個入れるのが特徴の常連客。コンピュータに非常に詳しく、その正体は・・・という、まあ、これもお約束なキャラですが、属性云々よりEDのウェイトレス姿に撃沈です。
 この娘、身長149cm、バスト69。年齢を明記しなければセーフという軍縮条約の空文化を衝いたグレーゾーンキャラです。もっとも、最近は「はじめてのおるすばん」の観月姉妹のような130cm台の条約もなにもあったもんじゃないキャラが増えているので、あまりインパクトはありませんが・・・
 しかし、最近、条約の空文化がやたらと目立ち、「はじるす」や「スノーラディッシュバケーション」など条約を嘲笑するかの如きソフトまで出ていますが非常に危険で憂慮する事態であると思われます。このまま暴走して司直の介入を招き、児童ポルノ法の対象拡大や年齢の客観評価(第三者による見た目の判定)になった場合、年下・妹系などはもちろん、同年代のキャラも規制の対象になり、エロゲーそのものが衰退・壊滅する危険があります。実際、アメリカなどでもOVA「殻の中の小鳥」の2巻(レン編)などは発売できなくなっているみたいですしね。



バイナリィ・ポットと日本海軍

 吉野佳澄。お店のスタッフリーダーで何でもこなすが、主に経理とマシンを担当する。年上担当。
 当然ながらおっとりしていて眼鏡で、でも二面性もあるというお約束の塊。
 日本海軍の<吉野>は清帝国に対抗すべく艦隊整備を急いだ明治23年度計画で建造された巡洋艦です。
 明治26年に英アームストロング社で竣工。常備排水量4160トン、主砲15センチ4門と副砲12センチ8門はアームストロングの速射砲を採用、速力も世界最高水準の23ノットを実現し、清帝国の誇る東洋最大の巨艦にスピードと頭数で立ち向かうという日本海軍の方針が正面に出た軽快な艦となりました。
 日清戦争では第一遊撃隊の主力として豊島沖、威海衛攻撃など縦横に駆け巡る活躍を成し、黄海海戦でも高速・速射を活かして清国艦隊を圧倒しました。
 日露戦争ではやや旧型化していましたが、依然として第一艦隊に属し、旅順包囲戦などに従事していましたが明治37年5月15日に装甲巡洋艦<春日>と衝突、の衝角で左舷中央部を貫かれる悲運に見まわれ沈没しました。
 この事故に前後して通報艦<宮古>が触雷沈没(14日)、戦艦<初瀬>と<八島>が触雷沈没、通報艦<龍田>が座礁大破(15日)、砲艦<大島>と<赤城>が衝突し<大島>沈没、駆逐艦<暁>が触雷沈没(18日)と事故が相次ぎ関係者を憂慮させています。

 小津千歳。前述の電脳少女。
 「千歳」は千年、翻っては長い年月や永遠を示す成語ですが語感に日本人の琴線に触れる何かがあるのか、多くの艦に付けられた名前で、その数は実に6隻(特設艦船は含まず)。もしかすると日本の軍用船で最も多い名前なのかもしれません。
 まず幕府の運送船<千歳丸>が2隻。初代は文久2年に幕府が購入した<アミスティス>。木造帆船で排水量は256トン。この船は高杉晋作を乗せて上海に行った事で知られています。文久3年に売却(交換)。
 2代目は慶応2年に幕府が購入した<オワリ>に再命名されました。この船も木造帆船で排水量は323トンでした。
 また、久留米藩も排水量459トンの木造汽船を<千歳丸>と命名。この船は慶応4年に大阪天保山で行われた我が国初の観艦式に参加した6隻の中の一隻です。
 海軍も2隻、初代は明治30年にアメリカで建造された巡洋艦<千歳>が初代。当然ながら鋼製汽走で排水量は4992トン。前述の<吉野>の流れを汲む高速巡洋艦で日露戦争でも黄海海戦で敗走したロシア巡洋艦<ノーウィック>を遼艦<対馬>と共に長躯追撃し、樺太まで追い詰めて擱座させ捕獲する事に成功しています。
 2代目は水上機母艦。排水量は11023トン。ディーゼル機間の試験を兼ねた艦隊に随伴可能な水上機母艦として建造されましたが、秘密兵器の特殊潜航艇の母艦でもありました。後に空母に改造され、比島沖海戦で沈没しました。
 また、正式な海軍船ではありませんが徴用され、特設砲艦として北の護りに就いた日本郵船(近海郵船)の樺太航路の耐氷貨客船に<千歳丸>がありました。この船も地味ながらも樺太航路→特設砲艦→青函連絡航路→復員船→沖縄航路→サルベージ船と戦前・戦中・戦後を通して北へ南へ活躍した銘船です。
 戦後は自衛隊の護衛艦にもその名は受け継がれており、昭和48年に竣工したちくご型のDEが<ちとせ>と命名されました。地方隊用の小型護衛艦で排水量は1470トン、小型の船体に無理やり積んだアスロック(対潜ロケット魚雷)が妙に目立つ特徴的な艦でしたが平成11年に除籍となりました。

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