顔の無い月
 顔の無い月

  ROOT 定価:8800円  発売:2000年12月

 原画屋さんとして有名なCARNELIAN女史がキャラデザにも関わった事で話題となった作品です。

 ストーリー的にはありがちな民俗系のスリラー。突然、信州の名家の当主に指名された(許婚付き)主人公が、「月待ちの儀」と呼ばれる儀式までの1ヶ月間、山中の屋敷で過ごすというお話。

 システム的にはやや難有り。日記形式で経過がダイジェストされていたり、花の色で好感度が表現されたりと工夫はされているのですが、全体的に重く、PII-350やMC-500程度の環境では若干もたつく感じがしました。
 メッセージスキップは未読・既読関係なしにスキップしてしまう上に、スピードはかなり遅い目。分岐が多く、本腰を入れてかかると何回も繰り返しプレイする事になるだけに、スキップの遅いのはかなりのストレスになります。
 既読メッセージの読み返しなども快適とはいえず、もう一工夫欲しかったところです。

 シナリオは・・残念ながら破綻しています。設定や大筋では好感が持てる出来なのですが、構成が全てをぶち壊しにしています。
 シーン管理がまったくできておらず、知らない筈の事を知っていたり、2日前に訪れた場所なのに初めて訪れたような事をいったり、性格が豹変したり、あるいは話がいきなりとんだりと、まったくもって論外です。どこをどうすれば、こんなでたらめなシステムが出来るのやら・・・って感じです。
 ストーリーの方も、トゥルーEDルートではそれなりに読ませる話になっているのですが、その他のルートでは物語の「核心」の露出の仕方が下手すぎて、トゥルーEDストーリーを知らなければ「謎」ではなく「意味不明」のまま物語が進行してしまい、「ライターの独り善がり」丸だしになっています。これで、最初にトゥルーEDが通れるようになっているのなら救いがありますが、分岐抑制がかかっているので「意味不明」のまま延々とプレイを繰り返す事になります。金とって物を書くのなら、「謎」と「意味不明」の違いぐらいは押さえて欲しいもんです。
 あと、サブキャラEDが後味がよろしくないです。依緒ED以外はCG付きのEDでも妙に悪い方にふった中途半端な顛末になっています。「綺麗だけど哀しい結末」でも「ご都合主義炸裂、完全無欠のハッピーED」のどっちもでいいですし、「先送り」、「元の鞘」あたりでもいいですから、ちゃんと落すところに落として欲しかったような気もします。

 CGについてはまったく問題なし。質・量ともに定評ある原画屋さんを看板にしててCGに問題があったら救いがありません。
 音楽もいい感じです。ストーリーは民俗系ですが、民俗系に拘泥することなく、自己主張しすぎない、いい雰囲気に仕上がっています。(逆にいえば押しが弱い部分があるともとれますが)
 音声は巧い人を配しているだけに高い水準。私的印象ではヒロインの声質はどうかな、って感じもしますが巧い人ですから気になるってもんでもありません。
 一部、「そこは音声があって当然だろう」って部分で音声が無いところがありますが、ずるずる発売が延びてる間にシナリオを入れ替えたりしたんでしょうか・・音声付きのソフトは音声録音後はシナリオのブラッシュアップがしにくいという弊害が指摘されていますが、この作品もそれに該当するんでしょうかね。

 トータルな私的評価は「中」の「中」。普通の出来、というよりは良く出来ている部分と悪い部分が打ち消し合っての中って感じです。
 お気に入りキャラは・・・・・・・キャラは・・・・・キャラが活きてて、CGが可愛らしくて、EDも悪くなくて、言動や声も気に入っているって事なら東依緒なんですが、このコ、男の子なんですよね(しかもHあり)
 さすがに男性キャラを「お気に入り」指定するのは男として凄く抵抗があるので・・・次は栗原沙也加・・・明るくて元気な女の子・・・なんですが、この娘も設定上、いろいろあって無条件で受け入れにくいんですよねぇ・・・
 結局、無難な線で気が強い女の子がだんだん態度が変わっていくのが気持ち良いメインヒロインの倉木鈴菜って事にしときましょうか(笑)

顔の無い月と日本海軍

 東依緒。すごく可愛らしい「男の子」。本山教授じゃないですが「なんで男なんだぁ〜」って叫びたくなります。一見、単なる色物(際物?)の脇キャラと思わせておきながら、実はヒロインと重要な関係にあったりしてかなり物語の核心に近いところにいるキャラでした。

 日本海軍は<東>(正しくは<東艦>)。日本海軍の黎明期に活躍した軍艦で、当初は日本海軍唯一の装甲艦であった事から<甲鉄>と呼ばれていました。
 船型は2檣ブリック、排水量は1358トン。木造ながら甲鉄を装備、兵装は300ポンド・アームストロング砲に加えて艦首衝角を備えた極めて攻撃的な軍艦で、元治元年に仏ロシュフォール造船所で建造されたアメリカ海軍装甲艦<ストーンウォール>を慶応3年に幕府が購入したものです。
 <開陽>と並ぶ有力艦として期待されて横浜に回航されますが、アメリカが当時日本で発生していた内戦(戊辰戦争)に対し局外中立を宣言していた為に幕府に引渡たされず、明治2年に新政府に引き渡されました。

 新政府艦隊の主力として函館に立て篭もる佐幕派が建国を宣言した蝦夷共和国軍(榎本軍)を追討すべく北上、このとき行なわれた日本海軍最初の本格的海戦である宮古湾沖海戦では本艦の奪取を図った土方歳三率いる<回天>切り込み隊の攻撃をうけて一時は窮地に陥りますが、虎口を脱し切り込み隊を撃退することに成功、<春日>などと共に敗走する蝦夷艦隊を追撃し、機関故障で脱落していた<高雄>を自沈に追い込む戦果をあげています。
 そーいえば、歴史ifでは「<開陽>、江差沖で座礁せず」ってのはよくありますが、「<甲鉄>、幕府に引渡し」ってのはあんまり聞かないです。起きても不思議でなく、かつ戦局を左右するような重大イベントなんですけどね。(細かい考証〜アメリカの南北戦争やフランスやイギリスの動きなど〜を入れると成り立ちませんが、それをやると歴史ifの9割は成り立たなくなるので・・)
 まあ、新政府軍に<甲鉄>が居た方が、その後の宮古湾で「土方歳三、<甲鉄>を奪取」なんて見せ場が作れるからでしょうが。

 その後、台風で沈没する事故にあったりするものの(浮揚、修復)、海軍黎明期の最有力艦として明治21年1月に除籍されるまで佐賀の乱、台湾征討、西南戦争など明治初期の主な海軍作戦の一線で活躍しました。