檸 檬
 檸 檬

  13cm/ビジュアルアーツ 定価:8800円  発売:2000年4月

 18禁アドベンチャーゲーム。

 主人公の小説家の相馬隆一郎は叔父がオーナーをするカフェ「影絵亭」を譲りうけます。ところが「影絵亭」はかつては娼館で女給達は娼婦だった・・娼館の方は既に廃業しており、女給達は主人公の為だけの娼婦になる・・なんてお話。

 どうも発売までに設定が振れたようで、主人公の立場や状況が雑誌の紹介記事やパッケージ、マニュアルと実際のゲームで設定が微妙に異なっていたり不自然な部分があったりします。もっとも設定といっても、本質的にHする女の子とHの内容を選ぶだけだし、女の子側の設定&ストーリーは「影絵亭はかつては娼館だった」の方がキーなのであまり問題にはならないと思われます。

 Hシーンに重点を置くために、間の部分の「シナリオ」をほとんど除外した「やるだけゲーム」ですが、Hする回数が増えるに従い、女の子側の問題が次第に開かされてゆなど、全く「ストーリー」が無いという訳ではなく、ちゃんとしたEDもあります。(バッドEDがあるかどうかは知りませんが・・)

 システムはビジュアルアーツの共通システムなので安定していて機能的にも何も問題なしで「無事是名馬」を地で行っています。システム的にも突出したものはありませんが、バグだらけで満足に動かなかったり、製作した人間のセンスを疑うような実用を無視した奇抜なシステムや、テストした人の精神力の高さに感服するしかない、強靭な忍耐力が必要なシステムが多い中では高く評価されるものだと思います。
 絵は大変綺麗ですし、音楽もいかにも「大正時代〜」って雰囲気で大変いい感じになっており、CVも巧くあたっており、最初から放棄している「シナリオ」を除けば、極めて高水準でバランスがとれています。
 Hシーンは濃厚。シチュエーションはキャラによって差があり、良家のお嬢様で初物である所の楠本雪緒や本職だか心に傷をおって肌を合わせる事を拒む美郷可南子などは「段階」を踏んで本番に近づいていくパターン、逆に本職の桐生咲絵、李明夏、カレンはプレイが次第にエスカレートしていくものとなっています。

 萌えキャラは・・美郷可南子ちゃん。没落華族の娘。娼館を渡り歩くうちに人間不信となり無口・無表情・無感動になったという、所謂「無表情系」キャラ。
 最初は主人公に対しても心を閉ざしているが、次第に心を開いていく課程がなんともいい感じです。
 次点はドイツ人と日本人のハーフのカレン。父親に捨てられた為に「物心付く前から殿方の相手をしてきた」という恐るべき境遇の持ち主ですが、明るく素直で聡明という「変った」性格。可南子ちゃんほど目に見える変化はないのですが、かわいいの一言につきます。

檸檬と日本海軍陸軍

   名前一致せず。最近、未ヒットのソフトを連続して遊んでしまっているので、ここは「大正時代と日本海軍」と称して大正時代の海軍の話(大イベントはシーメンス事件、エムデン追撃、欧州遠征、八八艦隊、軍縮条約あたりか?)でも書こうかとも思いましたが、陸のエライ人(をモデルにしたキャラ)が出てきたので、その人の話を・・・

 日本人留学生と恋仲になったけど、その留学生に捨てられたドイツ人の娘が日本に来て産んだ女の子・カレン。日本に頼る者の居ない母親は身を売って生活し、母親が夭折した後はカレン自身が身を売って生活してきた「影絵亭で最年少にして最ベテラン娼婦」。
 彼女の父親の名前は林森太郎・・・とくれば、モデルは間違い無く森林太郎。

 森林太郎。文久2年(1862年)、津和野藩の典医の長男として産まれ、僅か12歳で東京医学校予科(在学中に東京帝国大学医学部に改組)に年齢を詐称して入学した天才少年でした。19歳で卒業した後は陸軍に進み22歳から26歳までドイツに官費留学するなど、エリート街道を邁進します。
 ちなみに、件のドイツ人女性はこのときのドイツ留学中に知り合ったもので、ゲームと同じく、彼女は林太郎を追って来日しますが、日本に残って女の子を産んだりはせず、林太郎の上司や家族の説得を受け入れて帰国しています。(余談ですが、この女性は年上の未亡人説が一般的でしたが、最近は16歳の少女説も出てきているようです。そういえば海軍の広瀬武夫〜後に軍神第一号〜もロシア人少女と恋仲とかという話も・・・体格の問題で幼い女性の方が付き合いやすかったのでしょうか・・それとも単に当人達の趣味の問題?)
 その後、日清・日露戦争にも従軍。第四師団が戦地で軍中から凱旋歌を募集した際には選考委員となり第四師団凱旋歌「霜待つ秋」を選考したりもしました。
 46歳で軍医の最高位である軍医総監(後の軍医中将に相当)に昇進。陸軍軍医のトップ&衛生学の権威として医学会に大きな影響力を持ちました。もっとも、脚気病原菌説に拘るあまりに日清・日露戦争で30万人を近い脚気患者を出した責任者として、また高木兼寛(海軍軍医総監。脚気食事原因説を唱え海軍から脚気を駆逐した。ちなみに海軍の脚気患者は日清・日露戦争の合計で200人弱)や北里柴三郎(伝染病の研究者として有名。ドイツ系の医学者でありながら脚気細菌説に反対した。)といった対立者を激しく攻撃し、感情的に罵るような言論を行なったり、文部省や帝国大学に手を回して弾圧まがいの事をするなどマイナス面の評価も決して少なくないようです。

 と、これだけでも大した人物なんですが、森軍医総監はもう1つ、特技がありました。それは文章を書くこと。代表作としては「舞姫」「高瀬船」「雁」・・・・そう、中学校で習ったと思いますが、明治の文豪「森鴎外」です。