My Merry May
 My Merry May

  KID 定価:6800円  発売:2002年4月
メインヒロインが生死に係ります。メインヒロインと主人公が病みます。(ただし主人公の病は作中で解明されず)

 何時の間にやら「私的最信頼ソフトハウス」になっているKIDのDC版AVG。
 キャラデザに人気イラストレーターを当てる事の多いKIDにしては珍しく社内の原画屋をキャラデザに起用し、割と軽く作ったというイメージがありましたが、なかなかの作品でした。
 なお、シナリオはメモリーズオフのみなもや2ndの相摩姉妹を担当したQ'tron。

 主人公は普通の高校生ですが、海外でレプリス(人工生命体)の研究を行っている家族(父&兄)から送られてきたレプリスを起動させた事から物語が始ります。
 本当は「理想の女の子」となる筈だったレプリスですが、インストール時の事故で万事無能の幼児のような、でも心を持った存在になってしまいます。主人公と心をもったレプリスの奇妙な共同生活の行く末は・・
 いわゆる「ロボ子もの」って奴です。まあ、レプリスは「なまもの」のようなので、ロボットというよりクローンに近いのかも知れませんが・・

 攻略可能ヒロインはレプリスのレゥ、レゥの「妹」で完璧なレプリスのリース、幼馴染の榛名ひとえ、親友の彼女の吾妻もとみ、酒乱系の寮母代理・杵築たえ、無愛想系年下の結城みさお。
 非常にお約束が揃ったメンツですが、お約束ゆえに魅力的です。

 本作で感心したのはみさおED。ハッピーED(Bエンド)がほとんどバッドEDであるトゥルーED(Aエンド)でひっくり返されるのですが、AエンドとBエンドではエンディングに至る過程やエンディングの台詞や行動はみんな同じ。主人公がただひとつの事柄に気づいた時、歓喜の涙は絶望の涙に変るのです。
 まったくもって見事な手法ですが、なにも鬱になるようなEDにこんな高度な技を使わなくても・・って気もします。なんだか夢のテクノロジー〜たとえばマルチ〜を戦争に使われた、そんな気分です(笑)。

 逆に感心できないと思ったのはシナリオの完成度の低さ。KIDは「Close to」 の当たりから非常に伏線の扱いが巧くなってきたという印象があったのですが、今回はクリア順によっては完全に意味不明なまま進行したり、最後まで伏線が解かれなかったりと裏目に出ているような気がします。
 Q'tron ははっきりとオチを付けるので無く、決着をつけない事で余韻を引っ張らせる技法が好みのようですが、せいぜいこの技法が許されるのはメモリーズオフのみなもシナリオぐらいまでで、2ndの希望シナリオはやりすぎ、グランドストーリーや作中に頻出したバッググラウンドなど、物語の基本設定に関する部分にさえ決着をつけない本作に至っては「未完成」の謗りを免れ得ないのではないかと思います。
 だいたい、物語というのは書き始めるよりも終る方が難しく、人気作家の中にも話を終らせられない人が居ますが、最近はシナリオライターにも増えているような気がします。

 システム的には文句なし。既読スキップ、強制スキップ、音声付読み返し可など完備。スキップ時は表情違いの立ち絵を省略するデフォル表示も選択可能。
 セーブ&ロードは随時可能の32ヶ所、クイックロードあり。ゲーム中日付、実日付、サムネイル付きで実日付は当日と前日は「今日」「昨日」表記になってなっているなど、とにかく完成度の高いKIDのDC用システムです。

 CGも綺麗です。立ち絵の黒目の処理が少々独特(虹彩や瞳孔の書き分けが無く、塗りつぶしの斜線の濃さで瞳を表現している)ですが、なれてくると気にならず、逆にちゃんと瞳を描いているイベントCGの方に違和感を感じたりしました。
 今回はキャラデザと原画が同じ人なので、KIDの作品に多かったキャラデザと実際のCGの乖離も殆どみられず、良い感じでまとまっています。

 私的評価は・・上の下。システムだけで勝ったも同然のKIDのDCソフトですが、シナリオも不満点はあるものの、その他については雰囲気も良く、かなり良く出来た部類に入っていると思います。

 お気に入りは・・ちょっと難しい作品ですが、トップがレゥ、僅かに継いでもとみ。
 たえさんは不戦敗だから置いておくとして、ファーストインプレッションでは無愛想系年下と属性的にスイートスポットのみさおと思わせぶりな言動からKIDの定石「想い続ける幼馴染」かと思われたひとえが「ちょっと恋愛対象ではないよなぁ・・」のレゥや、属性的には近いけど痛そうだから注意せねばのもとみより一歩リードしましたが、みさおは性格の豹変についていけず、ひとえは想い続ける対象が主人公でなかったのでやや醒めてしまいました。
 もとみは想像通り痛い話でしたが、結構ツボで急上昇。そうこうやっている内に恋愛対象じゃない筈のレゥも着実にポイントを重ねてファーストインプレッション組を逆転、結局、最後にプレイした強みも手伝ったのかレゥの僅差勝ちで決着しました。


My Merry Mayと日本海軍

 吾妻(あがつま)もとみ。押しの弱い大人しい性格ですが、それ故に中に秘めるものは激しい。KIDには珍しい眼鏡っ娘。
 「親友の彼女」で、親友と別れてごにゃごにゃやってるうちに主人公にくっつくという王道物のストーリーですが、レゥは「きっかけ」ではあるものの、あまり深く絡んで来ず、飛び道具なしの重たい恋愛物になっています。しかし、KIDの作品は基本的に「いい人」ばかりなので重たい話は読んでいてツライ・・・

 日本海軍は装甲巡洋艦<吾妻>。こちれは「あづま」と読みます。
 装甲巡洋艦は装甲は薄いものの、戦艦並の武装と高速を誇る快速艦艇で、<吾妻>は明治29年度計画によりフランスで建造されました。
 常備排水量9326トン、速力20ノット、武装は20センチ砲4門、15センチ砲12門。世界的にみても強力な艦でしたが船体が長すぎて当時、海軍が保有していたドックに収容できないなど、何とか列強に追いつこうとするアンバランスな海軍を象徴するような艦でもありました。日露戦争ではウルサン沖、日本海などの海戦で活躍、第一次世界大戦でもエムデン追撃に活躍しています。
 大正10年に海防艦に転籍、海軍機関学校の練習艦として長く使用され昭和19年2月15日に除籍・解体となりました。


 榛名ひとえ。主人公の幼馴染、主人公とは男女を意識させない「親友関係」。
 序盤に意味深な言動があるので、お約束の「主人公を想い続ける幼馴染」かと思っていましたが、ちょっと違っていました。

 日本海軍は巡洋戦艦(後に戦艦)<榛名>。
 巡洋戦艦は前述の装甲巡洋艦の子孫(というか、竣工までは巡洋戦艦の分類がなかったので装甲巡洋艦だった)にあたる艦種で戦艦を凌ぐ強力な武装と高速が特徴でした。
 イギリスで建造された<金剛>の設計図一式を譲りうけて国内で建造したもので、民間造船所(神戸川崎)で建造された最初の主力艦でもありました。常備排水量は27500トン、速力27.5ノット、主砲36センチ砲8門は当時としては世界最強の戦艦のひとつで第一次世界大戦ではオリジナルの設計者のイギリスがレンタルを打診してきたそうです。
 太平洋戦争でも<大和>以下、ほとんどの戦艦が柱島やトラック島の飾りになっていた中を侵攻作戦の支援、機動部隊の護衛、地上砲撃、水上戦と大活躍しますが、昭和19年末に内地に帰還してからは活動の機会はなく、昭和20年7月の呉大空襲で大破着底、戦後解体されました。

吾妻の主錨
 装甲巡洋艦<吾妻>の主錨。(乃木神社)



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