誰 彼
 誰 彼

  リーフ/アクアプラス 定価:7500円  発売:2001年2月

 今をときめくリーフの18禁AVG。ちなみに「たそがれ」と読みます。
 「アクティブドラマタイズノベル」などと銘打ってますが、これは「新しいもの」をアピールしたかったのか、「ビジュアルノベル」を商標登録したコナミのせいなのか、どっちでしょうかね。

 システム的な特徴として、8ビット時代末期のアクションゲームのようなチップアニメーションシーンが導入されているという点。元々、リーフはテキストによる演出について極めて高い評価を得ているソフトハウスですから、演出補助の小技を導入する必要があったかというと疑問ですが、業界の先頭ランナーとして新しい物に手を出すという姿勢は評価できます。

 50年の歳月を超えて目覚めた帝国陸軍特殊歩兵部隊所属の強化兵(仙命樹なる異質の生命体を血液中に宿したドーピング兵士)坂神蝉丸(主人公)の物語。目覚めた主人公を襲うかつての僚友達の目的は、眠りつづけた、そして目覚めた意義は?  というお話ですが、ストーリー的に、お世辞にも褒められません。「痕」に続くものを作ろうとして失敗した、そんな感じがします。
 流れそのものは悪くはないのですが、あまりにも主人公中心で物語が進みすぎ、ヒロイン達の影が薄すぎるのです。これが一般の小説やら映画ならそれでもいいんでしょうが、本作は18禁ギャルゲーな訳ですから、自らの存在意義を否定しているような印象さえ受けます。
 「タイムトリッパーの戸惑い」「不老不死の悲しみ」「クローンとオリジナル」と、ハインラインの影響を受けていそうな3本が柱だと思うのですが、それぞれに対応するヒロインを用意するところまでやっていて、なんでこうなるんだろう?って感じでサラっと流してしまっています。
 演出や脚本については全く文句が無いわけで、非常に惜しい出来としか言い様がありません。

 システムの出来は「流石リーフ」。チップアニメシーンは必須かといえば?ですが、操作は快適でストレスは有りません。
 既読管理もしっかりしていますし、スキップも高速。きびきび動くのでストレスもありません。
 クリア回数によるED抑制や好感度分岐があり、若干、攻略しにくい部分があるのですが、プレイ時間が短いし、不条理な難易度になっている部分もないので、特に問題はないと思われます。

 CGは高水準安定。つーか、リーフのCGに文句なんぞ思いつきません。今回はプロジェクターを使って80インチぐらいの大画面で遊んだのですが、全く違和感なし。流石としか言い様がありません。HシーンのCGが妙にHなのも相変わらず。
 Hシーンといえば、リーフの作品は伝統的に初物でも最初から感じまくりで、あまりにうそ臭いという批判がありますが、気にしていたのか、今回は「強化兵の血」という特殊な手段でブーストされるケースが多く、これはこれで面白い仕組になっています。
 音楽も決まってます。BGMが決まっているのは昔からですが、サウンドエフェクトもばっちりで、波の音とか足音とか、細かいところまで気が使われており、こちらも「流石はリーフ」って感じです。

 トータルな評価としては「佳作」。ストーリーが練り込み不足で重い設定の割に話が薄っぺらく、プレイ後の印象がやたらと薄い事を除けば充分に良く出来た作品です。
 完成度が高く、従来作品にあぐらをかかず、新しい事もやってますから「貴族の義務」は完全に果たしており、ひたすらストーリーの完成度の低さとギャルゲーの要素を失っているのがひたすら残念な作品といえます。私は「痕」の大ファンなので、リーフがこっち方面を進んでくれるのは嬉しい事なのですが、スケールメリットを活かすという点では「こみっくパーティ」や「まじかるアンティーク」の方が正解なのかも知れません。

 お気に入りキャラは・・・桑島高子かなぁ。看護婦見習で月代の叔父の家(主人公がやっかいになる家)の家事を一手に引き受けているキャラで、「利発で物静か」
 特に裏のない普通のキャラなんですが、彼女のルートでは普通である事がストーリー演出上の強力な武器になった筈なのに、活かし切れてなかったのは残念な所です。

誰彼と日本陸海軍

   主人公は陸軍の強化兵。本当に日本軍と関係があったりします。ただ、「陸軍特殊歩兵部隊」なんて言ってますが、秘密部隊にわざわざ「特殊」って付けてどうすんでしょうね。たとえば、満州のあの部隊は「関東軍防疫給水部」であって、間違えても「特殊実験部隊」などとは呼びません。余談ですが、開戦後は更にすすんで正規の部隊名では呼ばず、「731部隊」あるいは「徳731部隊」のように秘匿番号名や「石井部隊」のように指揮官名で呼びました。
 あと、陸軍は何をさせるつもりで彼を作ったんでしょうね。敵地に潜入して特殊工作させるつもりなら天測ぐらい教えておかないと不便だと思うのですけどね・・量産して打撃力に使うつもりなら・・朝に弱いのは問題。
 日本軍は夜襲を愛しましたが、完全な夜襲にすると攻撃側も消耗してしまう上に混乱して乱戦に陥ってしまうので、夜の間に移動だけして攻撃開始は夜明けを待つ払暁攻撃が普通でしたし、統帥綱領(日本陸軍の高級指揮官向け戦争マニュアル)に於いては払暁攻撃すら常態としてはならない、と戒めています。(同時に好機が至れば夜間行軍や追撃を躊躇ってはならないともかかれていますが)

 この他にも、軍隊関係の用語やら何やらは色々と出てきますが、流石のリーフもこっち方面の考証はいい加減みたいで、「潜水母艦の基地」などというけったいな台詞が出たり(潜水母艦は潜水艦に補給を行なう為の普通の水上艦艇であり基地など不用。伊400型による水中機動部隊かとも思われるが、あのぐらいの規模になると秘密基地では賄えないと思う。ありうるのは日本中に作られた回天や蛟龍など特攻潜航艇基地ぐらい?)、「六四式」などというけったいな型番の細菌がでてきたり(六四式だと紀元2664年か2564年、すなわち2004年か1904年に制式採用という事になる。そもそも、細菌兵器のような特殊な代物は「制式採用」されない)と適当のようです。まあ、考証をごちゃごちゃいうような話ではないですが、「調べる気が無いんだったら使うなよ・・」って感じはぬぐえません。

 ああ、そういえば御堂が使う銃は装弾数17発でオーストリア製(昭和19年当時はオーストリアという国はありませんでしたが・・)という事なので、おそらくグロックの9ミリだと思います。軽くて使いやすい銃だそうですが、強化兵に対して使うのはどんなもんでしょう。貫通できない9ミリなどただの豆鉄砲、それよりは充分なストッピングパワーが期待できるデザートイーグル、コルトガバメントのような大口径銃の方が向いていると思うのですが・・
 それに、蝉丸は御堂から奪った銃を懐に隠し持っていましたが、当時の日本製の自動拳銃は安全装置を解除してなくても暴発するような難儀な物が多く、そんなのを使っていた人が、安全装置が外れたまま銃を懐に入れたままで飛んだり跳ねたりするような事は絶対にしないと思いますね・・(グロックの安全装置はトリガセーフティ〜引き金に指をかけると解除〜という、他の自動拳銃とは違う仕組を採用しています)

 続いていつも通り船名。
 砧夕霧。「きぬた ゆうき」と読みます。なんか、本作の固有名詞って変った名前が多く(神道・伝承系のようですが、東北や山陰に縁の名前が多いのかも?)、独特のテイストがあります。
 彼女はメインヒロイン(?)の親友で、おでことお下げと眼鏡が特徴。カエルとかアメフラシが好きという、変な子ですが、キャラが全く活かされておらず、完全に遊兵化していました。

 日本海軍の<夕霧>は「ゆうぎり」。2隻存在して初代は英国製の東雲型駆逐艦。明治33年竣工で日本海海戦では<春雨>と衝突して大破するも沈没は免れ、大正8年に雑役船に転籍、大正13年廃船。
 二代目<夕霧>は特型駆逐艦。主砲の仰角を増した第二グループに属する艦ですが、昭和10年9月26日、太平洋上で演習中に暴風雨に遭遇、艦首切断の大損害を被りました。
 この事件は「第四艦隊事件」として知られ、<夕霧>以外に<初雪>が艦首切断、空母<龍襄>が艦橋破壊など、多くの艦で問題が発生した為に設計上の不備が発覚し、この対策の為に開戦直前の貴重な時間を費やす事になりました。

   石原麗子。診療所の所長で「何かを知っていそう」な思わせぶりな行動をしますが、実際はあまり物語にタッチしないという、巧く活きていないキャラのひとりです。
 50年前の強化兵研究施設では安宅という名前を名乗っていました。

 砲艦<安宅>。大正11年に竣工した長江および大陸沿岸で使用する事を目的とした大型河用砲艦。725トンの小型艦ですが、用途が用途だけに居住性や通信能力、威容などが重視された一風変わった艦でした。
 この艦は最初は<勿来>と命名されたのですが、中国語で「来るな」という意味になってしまい、中国で使うにはあまりに不適切という事で<安宅>に変更されたことで知られています。