「信じれば現実になる」と言った人はたくさんいる。
その中には立派な人も、そうでない人もいたでありましょう。
言葉の意味って、偉人が言うのとキチガイが言うのとではずいぶんちがうものだなぁと感じた数日間でありました。
ことの起こりはBar排他的論理和の閉店前に私が2日間バーテンダーをしたとき。結構遅い目の時間だったかな。サトウタマキという酔っ払いのオバハンがきた。2日とも。
「ここもうしまるんか!」「いるんやったら売るで」「買う!!!」
そういう会話をした。
あんだけ酔ってたら覚えているはずがないと思ってたけど、覚えていたようで本当に買いに来た。
あとで気づいた。あの人、酔ってなくてもあんな感じなんや。
売ったからには、ビル会社にも言っとかないといけないな。
電話した。担当者は、サトウタマキを知っていた。
「あー!サトウタマキ!!電話してきたよ!!」
かつて、相当やらかしたらしい。
あいつ、ビル会社に電話して契約を拒否されてやがった。
よっぽどやな。
アンタ契約できんらしいで、とサトウタマキに言ったら、そんなことはないという。いやいや、そんなことあるって。
とりあえず、契約できなくても什器一式を買って運送屋に家まで運ばせるという。
それならいいか。
サトウタマキが酒に付き合えという。
ミナミまで出てきて酒も飲まずに帰るのは違うなと思ったから付き合うことにした。
チェーン店の焼き鳥屋に行った。
「カウンター席でのご案内になります」「テーブル席がいい!!!」「あいにく満席でございます」「あそこあいてる!!」「予約席です」
最初っから飛ばしてきやがる。ほら、店員さんそこに座れってゆうてるから。いやーー焼いてるとこみえるこっちがいい!!店員さんの言うこときけ!!このあたりから、ヤツは命令調で怒鳴らないと聞こえてないらしきことに薄々気づき始めた。
サトウタマキは、店員さんに思いつく限りの無茶な要求を繰り出しながら5本300円とかの焼き鳥、ほぼ1人で1万円ぶんくらい食べた。揚げ物も炭水化物も食べてた。
「さすがデブはやることが違うね」
「かわいいやろ!!」
その言葉は似合わないな、と思った。
タケさんとこいこー!とサトウタマキが言う。やめとこうと私は言う。我々で押しかけたら事故しか起きないぞ。そんな言い方でサトウタマキは止まらない。酔ってきた私は、ちょっと面白いなと思い始めてきていたので、乗りかかった船に乗ることにした。
サトウタマキは、相変わらずやりたい放題だった。
この人といると、お店の人が可哀そうで仕方がない。
「信じれば現実になる」とサトウタマキは言った。
ニッポーが私に貸さないはずがない、といまさらまた言った。
その件に関しては、信じても確実に現実にならない。
こいつが人の言うことをきかないメカニズムが少々わかった。
願いをかなえるために、理想の現実が目の前にあると信じているのだ。
「願っただけで現実が変わるか、バカ!」
「おおバカもんやねん!」
「勝手に言葉をマイルドにするな、バカだ!」
バカって千回くらい言ったな。
私はお先に失礼することにした。
「ダメー!!帰らないで!!!」
「帰るわ、バカ!!」
「排他的論理和に荷物がある!!とりにいく!」
「もってきたるから、キミはここにいろ!!ついてくるな!!」
「キタローとシャネル!!」
「なんやそれは!!」
「キタロー?目玉おやじやったっけ?トートとシャネルのカバン!」
「あー、水木しげるのトートもってたな」
「わかりやすいやろ」
「通じてなかったの気づいてないんかバカ!!」
目玉おやじだった。
置いて帰ろうとすると「あと上着ー!!」という。
一回で言え、バカ。
結局、持って帰る荷物を選別させろとついてきた。
現金はもらった。ヤツには買ったものを持って帰る権利があるので仕方がない。
とはいえ後日運送屋さんを呼ぶそうだし、そう急いで持って帰るものはなかった。
「次は運送屋さん呼んだときやで」
「マサシのとこイコー!!」
「嫌だ帰る」
「荷物!!」
荷物といえば、私が帰らずに鍵を開けることを学習したようだ。
急いで持って帰る荷物なかったがな。
バカか。ああ、バカだ。
サトウタマキを振り切って落ち着いていると、ウィステリアのマヤから連絡があった。三ツ寺会館でサトウタマキが暴れているという。
わだー!!とか言いながら、全部の店のドアを叩いてまわっているそうだ。
信じて叩けば、どこからか私が現れると思ったのか。
バカを通り越してキチガイだな。
サトウタマキは、ウィステリアに居ついたらしい。
「急ぎの荷物!!」と言ってるそうだ。
しゃあない、行くか。
シャンパン開けて愉快に遊んでやがった。
ウィステリアに行く途中、うのたけが心配してくれていたし、よっぽどの感じだったらしい。
ウィステリアの会計の値段2倍と、40店舗、各2千円、8万円の迷惑料を合わせて請求した。
「40店舗くらいは叩いたなぁ・・・」
私が思い付きで言った店舗数はほぼ当たっていたらしい。
結局、サトウタマキは会計と別に2万円出して、マヤに2千円チップ渡して、1万8千円の迷惑料をウィステリアに預けた。
9名ぶんは預けてあるので、ドンドンされで驚いた諸氏、2千円づつ受け取りに行ってくださいませ。
10名以降のぶんは、追ってサトウタマキに請求することになっている。
最後、さすがにサトウタマキも疲れてきたようで、タクシーで帰るので段ボールいっこは積んでいくという。
「そんで急ぎの荷物ってなんやってん!!」
サトウタマキは、「それは考えてなかった」という顔をした。
「グラス・・・とか?」
「100円の安物のグラスを???」
「ぶあっはっはっは!!!」
自分の言ったことがおかしいと気づいたらしい。
さすがに家に安物のグラスくらいナンボでもあるわな。
大惨事。店の前で昼まで飲んでる酔っ払い呼び込むなバカ!
「二月中は私の店やからー!」
「貸さんわ!!バカ!!」
「じゃ働かして!!」
「あかんに決まってるやろ!!バカ!!」
「そんなことないよぅ・・・」
というか、酔っ払いのオッサン、入ってくんなよ!!!
アカンゆうてるのに3千円売り上げるなバカ!!
というかこんなんにカネ払うなオッサンたち!!
サトウタマキ、ウキウキしてるんちゃうぞ、バカ!!
オッサンら追い出して、サトウタマキを追い出すのがまた大変だった。
「タバコすわしてー!」
「くつろぐな、帰れ、バカ!!」
「なぁ。楽しいな!」
「楽しいのは君だけだ、帰れ、バカ!!」
「あ、カウンター磨こ♪」
「うれしそうに磨くな、キミの店にはならない!!!」
結局、サトウタマキにタクシーで堺まで送ってもらった。
バカって千回くらい言った。
疲れた。