加奈 〜いもうと〜
 加奈 〜いもうと〜

  ディー・オー 定価:8800円  発売:99年6月

 D.O.の18禁ノベル系アドベンチャーゲーム。私的には「虜」のインパクトが強すぎて、陵辱系というイメージのあるD.O.ですが、とんでもない破壊力の作品を出してきました。

 タイトルから判るように妹系。幼い頃は小学校を卒業できないとも言われていた病弱な妹・加奈と加奈を一心に守りつづけようとする兄(主人公)の美しく、痛い物語です。

 小、中、高と成長していくにつれて御互いを想う気持ちは愛情へと変わり・・・しかし、加奈の時間は、ほとんど残されてはいなかった・・・と御約束といえば御約束なストーリーでありますが、丁寧に作りこまれており、シナリオは非常に感動的。確かに悲劇は感動させやすいといいますが、それを差し引いても、ひたすら妹を思う兄、ただ兄を信じて慕う妹、そして、御互いの気持ちが愛情に昇華する過程、死に直面しての達観などが丁寧に描かれており、まさに珠玉の名作と呼んで差し支えはないでしょう。
 ただ、医療の方面で突っ込んだ用語や小道具が出てきますが、相当デタラメ。肝移植などストーリーに影響する部分は「フィクション」でいいとして、関係ない所までデタラメなのはちょっとナニです。専門書で調べろとはいいませんが、百科辞典やイミダスていどの事典に載ってることぐらい、ちゃんとしておいてほしいもんです。
 まあ、これで現実とごっちゃにした内容で「意見主張」してたらサイテーですが、スパイスとして使われているだけなので、7年前に木から落ちた子が起こした奇跡と同じレベルという事なんでしょう。

 システムはコントラストを落としたCGの上に文字を重ねて表示する一般的なノベルタイプ。自動行送りがあったり、「1つ前の選択肢に戻る」があったりと工夫はしていますが、まあ並+といったところ。特にバグもないし、いいんじゃないでしょうか。
 ストーリー期間は主人公が加奈を最初に守るべき存在だと認識した8歳の夏から加奈の病が急変する17歳の冬までの約9年間。もちろん、フルタイムでストーリーがある訳ではなく、要所要所が語られるような形式になっています。
 ストーリーは6ED構成、系統でいけば2系統なんですが、ストーリーそのものはは基本的に1本道でイベントが切り替わり結末に至るタイプで、しかも選択とイベント分岐が一対一になってない「パラメータ分岐」を含んでいます。
 このタイプは、ひとつ間違えるとダラダラと同じ文章を何回も見せさせられて、おまけに正しい選択が判りにくいので延々とプレイさせられる危険があるのですが、本作は分岐の切り方が巧いのかシナリオの魅力なのか、何度も同じ文章を読まされたという印象は少なく、また選択も比較的素直なのでかなり自然にプレイする事ができます。

 CGは難あり。CGそのものは悪くないのですが、ストーリー期間が長いのに書き分けが不充分で、「病気のせいで発育が遅れている」筈の加奈が不自然なぐらいに大人びてみえたりする事が多々あります。原画の人の単行本を見る限り、そんなに書き分けのできない人じゃななさそうだし、実際に巧く書き分けられている絵もあるのになんででしょう。
 特に幼少期の2、3のシーンなど、どーみても8歳にはみえず、この業界なら「18歳」でも通じるかもしれないような絵になってしまっています。

 音楽はいい感じです。曲数は多くない上に曲の感じが似てしまっていてさらに少なく感じますが、BGMとしてツボを押さえた、いい感じの曲が揃っています。
 OP/ED歌と挿入歌も非常にいい感じで作品によく合っており、コンプリート後1週間たった今でも私の頭の中をエンドレスで流れるので困ってます(笑)

 あと、Hシーンの導入・意義ですが、この作品の場合、かなり自然です。ああ、こういうタイプ人間が戦地で虐殺や強姦を起こすんだろうなぁ・・なんて部分はありましたが、どのシーンもいちいち納得でき、「とって付けたような展開」が無いのは立派です。
 最近、18禁でもマルチEDでもある理由が無いソフトって多いのですが、本作は両方の意味を持っているわけで、その点でも大したもんだと思います。

 私的評価は「名作」。「こみパ」「Kanon」を押さえて俺的ギャルゲーランキング99年上半期トップ。歴代ランクは感情系の作品なので、もう少し時間を置かないと評価できないのだけど、3位〜5位程度(痕とToHeartの下、ONEや下級生あたりと同程度)で決着しそうなところです。

 なお、私的評価が落ちつくまで、ここまで激しく動いたソフトは今までありませんでした。以下にその変化を記します。
◆プレイ前(購入時) [全く期待せず]
 うーん、そろそろ新しいゲームでも買うかな(2,3週おきぐらいにかっている)
 「姉妹いじり」でもいいけど、「ロイヤルブラッド2」や「俺の屍をこえていけ」が終わってないからノベルの方がいいかな・・・別に妹属性はないけど「加奈」あたりにするか・・・

◆プレイ中 [なんじゃこれは!]
 ファーストプレイ。な、なんなんだこれは・・これはゲームなんかの枠に収まらない、「本物の物語」、フィクションとは言え本物の闘病記とかと比較しうる作品かもしれない・・「本物」の言葉の重みはないけれど、擬似とはいえ、自分の選択の結果だからなより痛い・・・
 しかし、これは鬱になるなぁ・・ゲームのことだけじゃなくて、自分の肉親とかの最期も思い出しちゃったよ・・ああ・・フラッシュバックが起きて眠れない〜

◆コンプリート直後 [所詮エロゲー・・過大評価してたか・・]
 くそぉ・・まさかハッピーEDがあるとは・・これじゃまるでいかにもゲーム的じゃないか・・
 冷静に考えて見るとED5/6は死体肝移植だ。肝移植は生体か脳死でないとできないぞ。いつからSFになったんだ?「意思表示カード」も出てくるけど、当然、本物の意思表示カードの死後提供欄に肝臓なんて無いぞ。実物見た事無いのか?
 ED1〜3にしても「成功の確率は笑ってしまうぐらい低い」って・・ミスマッチゼロの生体腎移植の成功率が「笑ってしまう」のなら、笑えない治療って虫歯の治療ぐらいじゃないのか?(ちなみにミスマッチワンも含めた最近の生体腎移植の5年生存率は90%超。ついでに言うと、交通事故や別の病気で死ぬ可能性はあるから、包茎手術だろうが何だろうが5年生存率100%はありえない)
 ついでに、移植手術で拒絶反応が一番怖かったのは10年以上前の話。免役抑制剤シクロスポリンは急性拒絶反応の恐怖を過去のもの(骨髄移植はちょっと話が違うけど)にしつつあり、いま怖いのは移植臓器の機能不全、術後の大量出血、感染症と何より患者の体力が切れだ・・
 テキトーに話を作ってたのか・・所詮はエロゲーという事か・・・・

◆コンプリートしばらく後[でも・・やっぱり名作だ]
 所詮ゲーム。でも、ゲーム。理性では納得しても感情は納得できない悲劇ベースの「追憶」「雪」「おもいで」「今を生きる」に対し、ヒロイン以外のキャラによる救い(代償)「迷路から」、完全無欠の救い(キャンセル)「はじまりのさよなら」。「痕」のように「絶対に小説では表現できない」という性質のものではないけれど、単なる小説では全てを表現できないという点で「ゲームとしての意味」は充分に出ている。
 死体肝移植など設定の変な部分は・・・この作品が生命の尊厳や臓器移植について啓蒙的な部分に重点をおいた作品なら基底部分に「嘘」があったら問題だが、ハッピーEDを「ベストエンド」と称しているのだからエンタテイメント(もしかするとメインテーマは禁断の愛の方かも?)。だとすると変な設定は「嘘」ではなく「虚構」、フィクションとして取れるのではないか?そもそも、臓器移植に標準程度の知識と興味はあるであろう私(その手を本を半年ほど前に読み漁り、意思表示カードも作った)が気が付かなかったんだ。吊り線隠しは充分かもしれない。
 うん、やっぱり珠玉のシナリオ、「名作」なんだ・・・

 という経過をたどった訳です・・・

 萌えキャラは・・・って、このゲーム。〜萌え萌えなんて感情には重すぎました。
 たとえば「いのち煌いて」の由希子さん(実在した人。骨髄バンクのTVCMなんかに出てた人といえば判る人は多いと思いますが・・涙流す映像が大写しになって「享年21歳」って出るやつ)を綺麗だな、かわいいな、と思うことはあるでしょうが、萌え萌え〜なんて感情は出てこないのと同じかもしれませんね。由希子さんは事実、加奈はフィクションだから一緒にするのはまずい事なんですが、感情は理屈じゃないですから・・
 下の「発見!」だって、今回はやめようかな、とかと思ったぐらいです・・

発見!日本海軍

 鹿島夕美。主人公の初恋の女性ですが、ちょっとした事故でその初恋は破れ主人公は夕美を憎むようになります。しかし、夕美は主人公を見つめつづける・・
 一見、明るくて押しの強い定型キャラで、表面的には加奈の「当て馬」なんですが、一方では10年も主人公を思いつづけた一途で健気な性格、しかも自分と妹を天秤にかけて自分をフッた主人公を助けるなど、聖母のような性質(無条件の愛→母性愛?)ももっており、こっちも定型といえば定型ですが、両方兼ねているキャラってのは珍しいかもしれません。

 日本海軍の<鹿島>は2隻。
 初代は日露戦争開戦直後に起工された戦艦。<三笠>を越える大型戦艦でしたが日露戦争には間に合わず、さらに建造中に<ドレッドノート>が出現した為、完成する前から旧式艦となる不幸な艦でした。
 第1次世界大戦ではシベリア方面に出動。大正10年には供奉艦として皇太子訪欧に随行しました。大正13年11月、ワシントン条約により廃棄され解体。

 2代目は候補生などの遠洋航海に使用される練習巡洋艦。それまでは遠洋航海などには旧式化した巡洋艦を使用していましたが、旧式化が著しくなったり、艦隊に取られたりで使える艦が無くなってきたので昭和13年度計画で2隻、14年度計画で1隻の練習巡洋艦が新造されることとなり、13年度計画の2番艦が<鹿島>と命名されました。
 実戦使用は想定されていませんでしたが、教育用に各種兵装を搭載し機関もタービンとディーゼルを併用するなど非常にバラエティにとんだ船となりました。
 予算が少なかったので商船構造や箱型艦橋などが採用されましたが、外国を訪問する関係上、デザインや内装には注意を払われ、艦橋が大きいことや乾舷が高い事も手伝って6000トン余りの艦には見えない堂々とした外観となりました。
 しかし、時局の悪化に伴い本来の目的であった遠洋航海は僅かに2回のみで、その後は外地部隊の旗艦となり、さらに戦争後半は対潜艦となりましたが、建造目的と予算により速力を低く押さえたこと(18ノット)がアダとなり、大きな活躍はできませんでした。
 姉妹艦3隻のうち<鹿島>のみは戦争を生き抜き、昭和20年10月5日、海軍解体により除籍され、昭和22年に解体されました。



 練習巡洋艦<鹿島>