アルバムの中の微笑み
 アルバムの中の微笑み

  キュアキューブ/アセンブラージュ 定価:8800円  発売:99年9月

 アセンブラージュの新ブランド、「キュアキューブ」デビュー作。

 時は大正時代(大正9年と推定)、実業家の息子で西洋画の講師として帰国した主人公と教え子(婚約者1名含む)4人とメイドさん1人のラブラブAVGです。

 良くも悪くもアセンブラージュ作品といった感じで、綺麗な絵と丁寧なCVで十二分に及第点に達した佳作なのですが、シナリオ、CGともに淡白で、印象に残りにくいという点では「グラフティ」や「マイフレンド」と同様です。
 今回はキャラ的にお嬢様orメイドと強い目が揃っているのですが、なんでこんなに淡白になるんでしょうか。まあ、アオリに「難しい事を考えなくとも、適切な選択をしてくだけで、物語はサクサクと進展して行く」とお手軽なのがウリにしており、「Kanon」や「終ノ空」「かざおとちりん」のように哲学的な話や禅問答のような話が増えている中での「簡単な話」、というのはアセンブラージュの<主張>なのかもしれないです。もし、そうならちゃんと成功していると言えます。

 ゲームシステムはノベル系(ただしオーバーレイではなくウィンドウ式)の一般的なアドベンチャーゲーム。マルチEDですが、マルチストーリーというよりは一本道ストーリーに各キャラEDへの分岐があり、そこを通るとEDといったもので、ストーリー的にも女の子側の主導なので、「攻略している」というよりは「攻略されているのを撃退して」「目当ての女の子を待つ」みたいな印象を受けました。
 ゲーム期間は1年ですが、話がぼんぼん飛ぶ上にキャラによっては途中でEDが来るのでほとんど時間はかかりませんし、難易度も超かんたん、というか、このゲームにバッドEDって無いと思います。
 あと、アルバムモードでは、CGに「この時はこうだったね」みたいな、後から一緒にアルバムを見ている設定のコメント(音声)が付きます。こういうのって思い入れの余韻が深まるので大好きです。

 萌えキャラは・・・桜木霞。実は発売前から友人に「(痕の)楓に似てるから」と予言され、そんときは「おかっぱなら何でも良いわけじゃないよぉ」なんて言ってたのですが、結局は予言的中(笑)。もっとも、中身は楓じゃなくてマルチでした。
 外国で暮らす主人公の為に身請けされ、子供の頃から主人公に仕えてきたメイドさんで、生活や行動の基準は全て主人公。他のキャラと主人公がくっついても主人公に仕えつづける、健気とか一途を通り越し、「主人公の為に生きている」キャラで、文部省教育により多少とも西洋的倫理観を持つ私としてはキモチ悪さすら覚えますが(余談ですが、私の倫理観は切り離せるのか、<絶望>とか<虜>は全然平気だったりします)、それにしても、何でここまで強烈なキャラが居るのに印象が薄いのやら・・・

発見!日本海軍

 ヒロインのひとり、逢沢彩菜の父君は海軍大佐。母君は芸者屋さんだったという事ですが、海軍って、そういうのって厳しいんですけどね・・
 若い士官が色街で遊ぶ事は許されていましたが(むしろ、奨励されていました)、特定の女性や素人娘との交際は厳禁。さらに、士官の結婚は海軍大臣の許可が必要ですが、このときは憲兵隊すら使って徹底的に身元調査をやったそうです。
 スパイが怖いとか、イギリスの真似とか、そういうのもありましたが、何しろ純粋培養の若者なので変な女に引っかかってはイケナイとの「親心」もあったようです。また、駐留武官などで海外勤務の可能性もあるから、それなりの「家柄」が要求されたので、芸者あがりの女性はまず認められない筈です。まあ、日清戦争の頃までであれば、官僚化や変な特権意識は無かったし、何より海軍トップの西郷従道の夫人はそっち方面の出身でしたので「芸者だから駄目」とはちょっと言いにくかったでしょうが、年齢的に考えて日露戦争の前後あたりでしょうから、ちょっと無理があるように思えます。

 あと、柚子とのデートで「芝浦でUボートが展示されている」とありますが、これは第一次世界大戦の戦利艦として日本に割り当てられた大型機雷潜のU125、中型量産艦のU46、U55、小型機雷潜UC90、UC99、沿岸用小型潜のUB125、UB143の7隻のことで、これらの艦は本土まで回航され凱旋観艦式を行なった後、研究に供され日本潜水艦の発展の礎となりました。
 艦隊決戦を旨とする日本海軍は大型のU125を高く評価し、伊1などの巡潜シリーズから”潜水空母”伊400へと巨大潜水艦への道を歩みましたが、もし、UCやUBシリーズのような「通商破壊潜」を重視していたら・・、あるいは高海艦隊が自沈せず一線級の戦艦や巡洋艦が引き渡され、ダメコン思想や防御力重視の設計に触れていたら・・といった話題は歴史にifは無いとはいうものの、興味深いものがあります。

 さて、続いて艦名。
 香川五月。親同士が決めた主人公の婚約者。気性の激しいおてんば娘だが、かつて、近所に住んでいた初恋の男の子を待ちつづけるかわいらしい面もあるメインヒロインです。
 日本海軍は<皐月>。初代は元ロシア駆逐艦<ヘドウィ>。日本海海戦後、ロシア第二太平洋艦隊司令長官ロジェストウェンスキー提督を乗せて敗走中され、日本艦籍に編入、<皐月>と命名。大正2年除籍、大正10年廃船となりました。
 2代目は睦月型の5番艦。太平洋戦争では南方作戦・ソロモン作戦などに従事しましたが、昭和19年にマニラ湾に停泊中に空襲を受けて沈没しました。

 桜木霞。主人公の為に生きるメイドさん。生身のマルチ(笑)
 初代<霞>は明治35年にイギリスのヤーロー社で竣工した雷型駆逐艦です。黄海海戦後、芝罘に逃げ込んだロシア駆逐艦<レシテリヌイ>に拿捕要員を送り込んだところ乱闘となり、戦闘の末に降伏させる事に成功するという「白兵戦で敵艦捕獲」という近代海戦史では極めて珍しい戦歴を残しています。大正2年除籍。
 2代目<霞>は朝潮型駆逐艦。海戦時は第二水雷戦隊に属していましたが、第一航空艦隊に引きぬかれハワイ攻撃に参加。その後も第一線で戦いつづけ、昭和20年4月、菊水一号作戦(大和水上特攻)で大破・行動不能に陥り、<冬月>により処分されました。

 長篠宮椿。華族の中でも名門中の名門、純正お嬢様。どうでもいい話なんですが、宮家は華族じゃなくて皇族のような気もしますがね。
 初代<椿>は楢型の二等駆逐艦。戦時急造艦で技術的な冒険は避けられていますが、戦訓を取りいれた実践的な艦でした。昭和10年除籍。
 2代目は丁型駆逐艦。昭和19年11月の竣工で内地−上海間の航路護衛に就きますが、昭和20年7月に空襲を受けて大破、そのまま放置され、戦後解体されました。

朝潮型駆逐艦
            朝潮型駆逐艦<霞>