北へ。 White Illumination
 北へ。 White Illumination

  ハドソン/RED 定価:5800円  発売:99年

 ハドソン/REDのドリームキャスト用恋愛SLG&北海道観光ガイド。
 1年以上前に発売された今更なソフトではありますが、ハマっちゃったのでレビュー書きます。

 本作は最初に北海道を訪れる夏編と、その年の冬休みに再び北海道を訪れる冬編にわかれており、夏編は1日が朝・午前・午後・夕方・夜に分割され、札幌または小樽の観光地に移動して移動先に女の子がいれば会話が始まる形式(イベントなどで女の子と一緒に移動する事も多い)、冬編は夏編で仲良くなった女の子と札幌と函館の観光地をデートするという形式になっています。
 女の子との会話はC.B.S.なる会話中にXボタンを押すことでリアルタイムに話を継いだり、割りこんだりするシステムを採っています。会話の緊張感とかを狙ったのでしょうが、外した時のリアクションがほとんど同じだったり、音声が途中でスキップが出来なかったりと害悪とまではいいませんが、良いといえる程のもんでもありません。
 夏編は特定の日時・特定の場所だけでイベントが発生する方式で、しかも女の子が居る場所が表示されたりするような便利機能は有りません。各キャラルートに入ってしまえば自然に逢えたり、居場所が話の前後から判るようなる事が多いですし、選択肢そのものやCBSのタイミングも慣れれば難しくないのですが、イベントの発生間隔が大きいキャラがいる上にセーブポイントが3箇所と少なく、セーブできる場所も限られているので全体的にシビアな印象をうけます。

 CGは綺麗です。NOCCHIさんの原画は文句なし。原画にはちょっと独特の雰囲気がありますが、巧くCG化できていると思います。実写背景もセンチのようにボケボケの「風景らしき画像」ではなく、シャープな実写背景で、少なくとも「北へ。」に限って言えばCG背景よりずっと「北海道〜」って感じが出て良いと思います。
 音楽はいつまでも頭の中に残りつづける大インパクトのオープニング曲以下良い感じです。各キャラ毎のBGMが若干自己主張している感もあるんですが、これらの曲にはこれまたキャラに良くあった歌詞が付いており、キャラの表現のひとつになっています。

 この作品で光るのはキャラクターの設定。この手のゲームでは「積極的で明るいけど実は寂しがりや」とか「内気だけど芯は強い」というふうに性格が二重底になっているキャラが多く、本作でも多くのキャラが二重性格になってますが、作品の外でキャラに深みを付けたり、イベントでぽこっと隠れた性格が出るだけじゃなく、作中の何気ない言動の中にキャラの奥行きを持たさせるのに成功しているのは流石はREDです。

 この作品の評価は・・このゲームを純粋なギャルゲーとして見るかどうかにかかってきます。旅行/観光をテーマにした作品といえば、「センチメンタルグラフティ」や「お嬢様特急」などがありますが、それらの作品で観光要素はカレーライスでいうなら「福神漬け」(センチ)や「具」(お嬢様特急)。無ければ寂しい事になるかもしれませんが、本質は変化しません。対して「北へ。」では観光要素は「ごはん」。ごはんが無いとカレーライスはただのカレーになり、カレーライスたりえません。
 「北へ。」は「ギャルゲー」であると同時に女の子が北海道の見所を解説してくれる「北海道観光案内ソフト」であり、この要素を「余計なもの」として見た場合、冗長な観光地解説や不自然なイベントが鼻につく「凡作」ないし「駄作」になると思います。
 しかし、これを受け入れた場合、CGやキャラ設定などギャルゲーとしての基礎体力は充分なのだから大した作品になります。少なくとも、北海道ファンの私はベタはまり状態に陥りました。よって私的評価は「条件付名作」とします。


 萌えキャラはターニャ・リピンスキー。ナイーブで純真で一途でちょっと内気で病弱(心臓病)なロシア人。ガラス職人の父の作った「夕焼けの色”ツヴェト・ザカータ”」を再現すべく小樽の運河工藝館で働く16歳。
 ギャルゲーのガイジンまたはハーフというと、ダイナマイトな体格でノー天気で、でも寂しがりやで変な日本語と相場が決まってますがターニャは華奢な体、内気だけど内に秘める強い意思に丁寧な日本語と、かなり異彩を放つキャラです。
 ガイジンってのは私的にはマイナス要素なのですが、その他は完全にスイートスポット直撃。爆雷の信管に機銃弾が命中するというか、煙突に爆弾が飛びこむというか、火薬庫引火というか、もう木っ端微塵って感じです。

 ちょっと気になったのは彼女の名前。キャラ紹介で最初に名前を見た時は「リピンスキーは男性形じゃないのか?レズの人や教条的男女同権主義者には見えないが・・」なんて思いました。これは作中で「父の生きた証」が欲しくて来日した時に苗字を変えたと理由が付けられています。
 が・・わざわざ苗字を変えなくてもロシア人名には父親の名前から付ける父称という便利なものが最初から用意されているのに、なんで省略してんでしょうかねぇ・・ちなみにターニャの父称はウラジヴィナです。
 ターニャの謎といえばもう一つ。彼女は4年前に単身で来日してガラス職人をやってます。「父の知り合いだった運河工藝館のオーナーに助けてもらった」なんて言ってますが、上海雑技団じゃあるまいし、どうやったら12歳の女の子に就労ビザを取ってあげられるのやら・・はっ、入国の時に名前を変えた事といい、もしや露探?そーいえば、作中でガラスに混ぜる金属云々でセレンがどうこうと言ってますが、実はもっと「重たい」金属を扱っているとか何とか・・・

 次点は春野琴梨ちゃん。メインヒロイン。主人公の従妹で、主人公を「お兄ちゃん」と慕っている16歳の高校生。料理や家事全般が得意な明るく素直で家庭的な女の子。
 「妹キャラ」あるいは「妹系幼馴染キャラ」の王道を征くキャラです。私は「お兄ちゃん」属性は無いのですが、こういうキャラって基本的に好きなので・・
 「お兄ちゃん」属性といえば、彼女は冬編では主人公を名前で呼ぼうとするし、「Photo Memories」では実際に名前に代わります。「お兄ちゃん」属性を持つ人にとっては非常に残念な事じゃないんでしょうか(笑)

 あと、どうでも良い話ですが、琴梨シナリオで琴梨ちゃんのお母さんが「漢字の方が横文字より高級」という例として「屈斜路湖コースとピリカハンバーグ」を出してきます。が・・ピリカはアイヌ語だからタテもヨコも無いんですけど・・(アイヌ語には文字はありません)

北へ。&北海道と日本軍

 春野響。メインヒロイン・春野琴梨のお父さん。既にこの世の人ではなく回想シーンに登場するだけです。
 日本海軍の<響>は昭和8年竣工の特型駆逐艦22番艦。世界を震撼させた特型ですが、建造時期により3グループに分類可能で、<響>は最終型の第3グループ(暁型)に属していました。第3グループは空気予熱器の採用で缶数が4から3に減じた為に第一煙突が細い事が最大の特徴です。
 太平洋戦争ではマレー、フィリピン、メナド、ジャワ方面の作戦に従事、昭和17年より北方に転じてアリューシャン方面で活動、その後は空母の護衛として再び南方に戻っています。この間、訓練中に誤って駆逐艦<島風>に雷撃を受けるという珍しい事故を起こしています。
 昭和20年3月29日、菊水一号作戦の水上艦艇による沖縄突入(<大和>の水上特攻といった方が通りが良い)に加わるべく呉に移動中に触雷、航行不能となった為に作戦から外され、修理後は日本海方面で防空に従事していました。同年8月15日早朝、新潟方面に飛来した米艦載機に対し<響>は25ミリ機銃で応戦しますが、これが日本海軍水上艦艇の最後の戦闘となりました。
 戦後は復員業務に就き、昭和22年7月に賠償艦としてソ連に引き渡されています。

 さて、ついでに「北へ。」の真の主役というべき「北海道」にスポットをあてて、以降は「北海道と日本軍」をいってみましょう(笑)。

 まず北海道に配置されていた海軍部隊。
 明治19年に定められた海軍条例により北海道周辺は第五海軍区と定められ、軍港は室蘭に置かれましたが、悪化する朝鮮問題に対応すべく佐世保、呉、舞鶴を整備する事が急務であった為に鎮守府や各種設備の整備は後回しになり、明治36年には第五海軍区は廃止となり横須賀を鎮守府とする第一海軍区に吸収されました。
 室蘭以外では、函館、厚岸、小樽、苫小牧、稚内あたりが経済的・軍事的に重要な海港ですが、特に函館は重視され、本作の冬編で女の子から告白される(または告白する)函館山周辺は28センチ砲などが据えつけられた要塞地帯となっており、世が世なら間違えてもターニャが近づけるような場所ではありませんでした。
 しかしながら維新から太平洋戦争までを通して概して北海道周辺海域の脅威度は低く、日露戦争中は函館に水雷艇隊が増強されたり、宗谷岬に望楼が作られりしましたが、日露戦争後はロシアの海軍が弱体化した事や太平洋戦争の大部分の期間をソ連が中立を保った事から概ね平穏で、北海道に派遣される部隊は主に測量や漁業保護を任務とした駆逐艦や測量艦、各種特務艦艇が主でした。

 開戦後は軽巡2隻(多摩・木曾)と特設巡洋艦(浅香丸、粟田丸)や特設水上機母艦(君川丸)特設哨戒艇から成る第五艦隊が北方の警備を担当する事となり、幌筵や大湊、八戸などを拠点に哨戒任務に就き、戦局の推移に応じて重巡<那智>や第一水雷戦隊などが逐次増強されてゆきました。
 北海道・北洋方面での作戦についてもソ連が中立だったことや気候の関係からあまり活発な作戦は行なわれておらず、大きなものは真珠湾攻撃の機動部隊が択捉島の単冠湾から出撃したり、アリューシャン方面への作戦(キスカ島撤収作戦とか)が同じく千島の幌筵から行なわれたぐらいです。
 太平洋戦争における北海道の被害は軽く、本島は大戦のごく末期に滝川や小樽などがB29や機動部隊の艦載機の空襲で若干の被害が出たのと室蘭の工業地帯が艦砲射撃で潰滅した程度で、主要都市が尽く丸焼けになった内地とは雲泥の差があり、戦後の立ち直りも早く政府および船舶運営会は<氷川丸>など奇跡的に大戦を生き延びた大型商船が復員業務から復帰すると真っ先に北海道航路に投入して物資の輸送を行なっています。しかし、停戦後にソ連軍の侵攻してきた千島・樺太では地上戦も行なわれ、特に樺太ではソ連兵が突入するまで残留して交換業務を継続し住民の脱出に大きな貢献を成した真岡郵便局の電話交換手の女性9名が自決するなど民間人も犠牲になっています。

 次に北海道の陸軍部隊。北海道といえば第7師団。陸上自衛隊第7師団は千歳に駐屯する自衛隊最強(=東洋最強)を誇る戦車師団ですが、起源は開拓に従事しつつ国防を担当する屯田兵で明治29年に札幌で常備師団に改組されました。
 北海道の部隊は素の状態でも北方警備という任務がある為に出征する事はすくなかったのですが出征すると不思議と大きな被害を被る傾向がありました。
 最初は日露戦争の旅順攻略戦。すでに三次にわたる総攻撃は失敗し「旅順要塞は日本兵の死体で舗装された」状態の明治37年11月30日から第7師団が戦闘に加入、「温存されていた期間分の『借り』を一気に返そうとするような猛烈な突撃」を繰り返し、本当に1日で死傷率75%という「2回全滅できる」大損害を出しました。(近代軍隊は部隊の20〜30%を失うと機能しなくなります)
 太平洋戦争では北海道の師団は第7師団(札幌→旭川)に加えて、第24師団(満州/旭川)、第71師団(満州/旭川)、第77師団(旭川)、第88師団(樺太)、第89師団(札幌)、第91師団(千島)、第115師団(天津/旭川)、第147師団(旭川)が編成され、その他の各種独立部隊としては独立山砲兵第8連隊(旭川)、高射砲兵第141連隊(室蘭)、津軽要塞重砲兵連隊(函館)、宗谷要塞重砲兵連隊(稚内)、飛行第62連隊(帯広)、独立混成第7旅団(後に第115師団に改組)、独立混成第69旅団(色丹島/旭川)、独立混成第101旅団(北見/旭川)、独立混成第120旅団(得撫島/札幌)などがありました。
 このうち、第7師団から抽出された歩兵第28連隊(旭川)は敵前上陸の訓練を受けた精鋭部隊としてガダルカナル島に逆上陸、ヘンダーソン飛行場に突入しますが奮戦及ばずに全滅しました。
 第24師団は当初は編成地の満州の警備に就いていましたが、戦局の悪化に伴い沖縄に移動、隷下の歩兵第89連隊(旭川)も絶望的な地上戦の末に摩文仁で全滅しています。
 第115師団は日米開戦前から独立混成第7旅団として北支の戦闘に加入、現地応召の後備兵部隊ながら京漢作戦などで活躍しました。この部隊は出征した北海道部隊では珍しい事(?)に潰滅する事なく終戦を迎えています。

 また第88師団と第91師団は北方警備の部隊でしたが、停戦締結後に侵攻してきたソ連軍を相手に樺太と千島で交戦しています。これらの戦闘では大きな損害を被ったものの圧倒的に優勢なソ連軍を足止めし、多くの民間人を脱出させるのに成功しています。もし、これらの師団の奮戦が無ければソ連軍の北海道上陸→日本分裂などという悪夢のシナリオが現実となっていた可能性もあり、そうなっていたら、少なくとも北海道を旅行して女の子と仲良くなるような悠長なソフトが作られなかった事だけは間違い無いでしょう。(あるいは、「祖国統一キャンペーン『MOVE ON』」とか「北日本の南日本に対する宣伝キャンペーン『MOVE ON』とか?)